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はつこい1(マキ×ヒロ/本仁戻『飼育係リカ』)



――穂足みたいに殺される!







「案外たいしたことなかったわ」
ヒロはいつものように飄々と笑う。けれども保健室から出てきた彼の歩きはひどくぎこちなく、顔色も優れなかった。

「病院には行かなくて大丈夫だって」
そりゃそうだろう。
病院送りにならない範囲で、剃刀の刃がなるべく深く肉を抉るように。大袈裟に血が出て、なるべく痛むように。俺が仕掛けたのだから間違う筈がない。

マキは労るような声色を意識した。
「無理すんなよ。災難だったな。」
ぽんと背中を叩いてヒロの鞄に手をかける。
「帰ろう、カバン持ったげる」
「ああ、サンキュ」

目の前の人物を疑いもしない、馬鹿な奴。あまりにも計画通りでつまらない。
(刺激が、足りないわナァ)

受け取った鞄を左手に移し、右手でそのままヒロの手を握った。ヒロが弾かれたようにこちらを見る。気にせずその手を引いて歩き出す。
ヒロは身体的な接触を好まない。身体に触れるといつも冗談っぽく手を払った。(瞬間彼の筋肉が緊張することをマキは知っていた)
今日は手が振り払われることはなかった。代わりに、握った指先からは生々しい震えが伝わってきた。

帰り道はなるべく明るく当たり障りのない話題を選んで喋った。前田のセンコーのヅラが浮いてた、レベルのどうでもいい話を延々と。人間やはり喋ると気が紛れるようだ。ゆっくり歩いていつもの倍近く掛かった帰り道のおかげでヒロは寮に着く頃にはいつもの調子を取り戻していた。

残念ながらヒロは穂足のように弱くはなかった。早く自分の無力さを思い知ればいい。そして依存するぐらい俺を頼りにするといい。


「ヒロ、」
別れ際の、扉を開けたヒロを呼び止める。振り向いた肩を掴み、体ごと自分の方へ向かせた。少し低い身長に合わせて目を真っ直ぐに見つめる。
「お前のことは俺が守るから」
ヒロの瞳が揺れる。掴んだ肩は強張っている。ヒロは何も言わない。やはり今日の出来事で相当キてるようだ。これは落ちる。
「俺は…」

「ヒロ、帰ったの?」
部屋の奥から押川さんの声がした。

ヒロはハッとして肩の手を払った。
「またァ、気持ち悪いこと言うなよ」
そう言って笑ったのはいつもの、ひょうきんな俺のクラスメイトのヒロだった。

「心配かけてごめんな、アリガト」
友達に心底感謝してる、といった感じでそう言われてしまったら俺にはもうどうすることもできない。じゃーネ、と手を振るヒロに俺は手を振り返していた。

閉まるドアの隙間から聞こえた「リカ、ただいま」という声は恋人か年下の兄弟相手のように優しいものだった。



バタン、と重い金属の音がマキとヒロを隔てる。そして、マキに冷たい感覚が戻ってくる。




ヒロ、かわいそうなヒロ。
明日には足の噂は学校中に広まって明後日には君は階段から落ちるんだ。不幸な事故で。それからは密室で穂足と一緒に私刑のフルコース!
俺ってホントひでー奴。けど反省はしない。

さようなら、テツの弟。

→つづきます

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あきゅろす。
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