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それが人生というもの(ティエリアとリジェネ/ガンダム00)
あれほど自分の生い立ちを否定してきたのに、戻ってきた此処はとても居心地が良かった。母なるヴェーダ。過去には私のたったひとつの神様だったもの。
人間は海を母に例えるという。ならばヴェーダはまさしく海だ。人間の英知をたたえる深く広い海。瞳を閉じれば規則正しく響く電子の鼓動が細波のように心地よく耳を擽る。

「僕はそろそろ行くよ」
巻き毛の彼が言う。
彼も僕も今は身体を持たない意識だけの状態だ。此処では意識はデータとなり電子の波に溶けていく。僕という個は溶けてなくなる。ヴェーダの一部となりこれまでの経験を還元するのだ。それはイノベノイド最大の義務であり幸せである。

けれども少し、寂しい。


「じゃあ、お先に」
彼らしい、いたずらっぽい笑顔を浮かべてヒラヒラと手を振るとくるりと背を向け明るい方へ歩いていった。
彼とはもっと話がしてみたい気がしたが、呼び止めるのは止めた。

「ああ、」
ふいに彼が足を止めた。
「君のことが羨ましかったよ」
こちらを振り向きもせずに続ける。
「そんな表情、僕には出来ない。同じ塩基配列なのに、君と僕は随分違う」
その声には彼らしくない悲しい調子が混じっていた。
「違わないさ。イノベイターとして生きたことが今の君を作った。君と僕とが異なること、一人一人が違うことに関して、人間もイノベイターもイノベノイドも違わないのさ。」

イオリアはそういうふうに僕らを、彼の子どもたちを作ったのだ。

暫しの沈黙の後、また歩き始めた彼は光の中に消えていった。


ゆたかな感情を、与えてくれたトレミーの皆に感謝する。
突き進む勇気を、優しさを、鮮烈な悲しみを、家族のような愛を。僕は、とても幸せだった。

もう少し、こうして思い出に浸ることを許して欲しい。
波の音を子守歌にうたた寝をしよう。ああ、こんなに心地良いのだから。こんなに幸せなのだから。隣に誰かがいてくれればいいのに。

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