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「はい美術準備室」
 鳴り響く内線電話を慌てて取り上げて、長峰弘夢はそう応える。
「ああすみません、長峰先生。仲西ですけど」
「ああ、はい。お疲れ様です」
「お疲れ様です。すみませんケド先生、今こちらに来れませんか?」
「は?ええと保健室にって事ですか?」
「はい」
「ええと大丈夫ですけど」
「すみませんけどお願いします」
 さて一体何事だろう、そう考えながら、弘夢は美術室へと顔を覗かせる。
「ああ居た居た、葵川」
「はい?」
「すまないが少し出て来るから、後を頼むよ」
「分かりました」
 その返事を聞きながら弘夢は保健室へと向かう。
「失礼します」
 言いながら扉を開けた弘夢は、中に居た人影に目を丸くした。
「幸治?」
「あ、弘夢兄さん」
「校内では長峰先生」
「いーじゃん別に人いないんだし」
「すみませんね長峰先生。御呼び立てして」
「ああ、いえ。でもどうしたんですか?」
 弘夢の言葉に、養護教諭である仲西巧は椅子に座っている生徒−弘夢の従兄弟にあたる志田幸治を見遣った。
「志田君が部活中に怪我をしてしまって」
「怪我?大丈夫なのか幸治」
「大袈裟だって。怪我って言ったって、ただの捻挫だし」
「捻挫も甘くみて放置してたら酷くなるだろ。捻挫だと思ってたら筋を痛めてたって事もあるんだからな。大体大騒ぎで此処に運ばれてきたのは、どこのどいつだ」
「俺が騒いでたわけじゃねーし」
「まあそんなわけで、病院にと思ったんですが、あいにく今日この後、俺は用事がありまして」
「だから別に良いって病院なんて。自分で歩いて帰れるくらいなんだぜ」
「こんな具合でしてね。このまま帰宅させたら絶対に行かないでしょう?」
「でしょうね」
 巧の言葉に弘夢は頷いた。
「で、申し訳ないとは思いつつ長峰先生を御呼び立てしたわけです」
「正解ですね。確か伯父さん達、週明けまで留守だろう?」
「何で知って……お袋か」
「そう言うコト。分かりました、連れて行きます」
「助かります」
「マジ?」
「マジ。そう言えば藤咲はどうしたんだ?彼女がいたら問答無用で病院行きだっただろう」
「今日は休み。親戚の結婚式とか言ってた。あーもう、アイツが居ないから免れたと思ってたのに」
「出たな本音。この病院嫌い」
「そんなんじゃねーよ」
「はいはい。じゃあ車回すから、正面玄関までは行けるな?」
「余裕」
「じゃあ宜しくお願いします、長峰先生」
 その言葉に弘夢は頷いて一度準備室に戻るのだった。






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