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 初めて輝と逢ったのは、高校に入学してから二週間程経ったある日、だった。
「あっ、悪い……」
 廊下ですれ違いざまにぶつかってきた相手が、一言そう謝る。
「気を付けろよ」
 明らかにムッとした響きを伴わせ拓はそう返した。何があったからかはもう思い出せはしないが、その時の拓はすこぶる不機嫌だったので。随分ときつい言い方になってしまっていた事は、今でもはっきりと覚えている。
「だから謝ってるだろ。なのに何だよその言い草。そっちこそボケッと突っ立ってるなよなッ」
「何だとッ」
 正に売り言葉に買い言葉。俄かに2人の間に立ち上った険悪なムード。もしあの時、居合わせた亨が慌てて止めに入り、その場を収めてくれていなかったら、きっと大喧嘩になっていたに違いない。
 輝と亨はその件もあってか、以後急速に親しくなっていったようだったが、拓と輝はと言うと、結局その件を引きずってしまったのだろう。暫くは険悪なままだった。
 まあそれも時間が経つ内に収まり、友人としての関係に収まっていたのだが。それもひとえに亨の尽力のお陰だろう。
 “生意気な奴”
 それが萩輝に対する一番の感想だった。
 けれど。
 何故かは分からないが、それ以来、彼の行動がやけに気になって仕方がなかった。
 輝は明るくて元気で、何よりも人懐っこかったので、半年も経たない内にすっかり学園内の“有名人”にという位置におさまってしまっていたから、それは当たり前と言えば当たり前かもしれなかった。
 しかし、そういうのとはどこか違っていたのだ。どこがどうとは説明できない、けれど確かな違和感。
 最初はライバル意識だろうか、と考えた。初対面が初対面だったからだ。それでも、日が経つに連れて、それとは違う、と思い始めた。
 自分にでさえも不可解なその感情。
 その感情に、拓は激しく戸惑い、そうして悩んだ。悩み続けた。これだけ悩めば、普段なら誰かに、そう例えば亨にでも相談しようものの、何故かこの件だけはそんな気になれなかった。
 ふと気がつくと、いつの間にか視線は輝の姿を探している。無意識に、けれどとめどなく。
 そうしてその不可解な感情に答えが出ないまま2年間が過ぎ。3年のクラス編成の時、同じクラスに輝の名前を見つけた。
 その時の、妙な心の疼き。
 そして拓はようやく気がついたのだ。
 自分が萩輝という存在に………どうしようもないほど魅かれている事に。




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