名前を呼んで!(『君に〜』番外SS) 「なんで!」 唐突に降って湧いた声に。 その場に居合わせた面々は一様に目を丸くした。 「なに?どうしたの?」 明らかに声の主が自分を凝視しているので。亨は目を丸くしたまま彼−萩輝を見返してそう尋ねる。 「ずりぃ!」 「何がだよ」 主語なく更に言い募った輝に、直人が眉を寄せながら尋ねる。 と、今度は直人に移った視線がキッとキツくなる。 「な、なんだよ」 「萩…?」 「それ!」 「え?」 零れた亨の声を聞きながら、ああ成る程、と。 居合わせた拓だけが、彼の言わんとすることを正確に理解して小さく笑う。 「拓だけならまだしも!」 「え?」 「なんで直人まで直人なんだよズルイぞ!」 「え?えーと…」 「拓はそりゃ幼馴染みだろーからわかるし、だからまあそーだろーなあって思ってたのに、なんで直人までいつの間に!」 「え、えーと…」 「直訴したからだよ俺が」 「………直訴?」 「っつかワガママ?」 「拓」 「いやまあ間違いじゃないけどさ」 拓の横槍に、直人が苦笑する。 「じゃあオレも直訴!」 「え?」 「だって拓は仕方ないと思ってたけど直人もならオレも名前がいい」 「まあ正論だよね」 「だよな!」 と更に降って湧いた声に、誰何もせずにそう返してから輝は振り返る。 「侑治もそー思うよな!」 「うんまあね」 「ほら!」 輝はそう言って亨に詰め寄る。 「オレも!」 「え?あ、うん、頑張る」 「頑張ること?」 「え、いや何となく?」 笑いを含んだ侑治の言葉に亨は小さく苦笑しながら返す。 「うん、じゃあオレも仲間に入れてね」 「え?」 「それこそオレだけ葵川じゃ凹むし」 「え、えと、ああうん」 頷いた亨に輝と侑治は満足そうに頷いて。 その隣で些か不本意そうな直人に、拓が笑いを噛み殺しているのに、亨も小さく苦笑するのだった。 そんなわけで彼等は暫くの間、 「は…輝」 だとか、 「あお…侑治」 だとか。 言いかけては慌てると言う実に珍しい亨の姿を、ほほえましく見守ることになるのだった(笑) [Next#] [戻る] |