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 ハイヱ ツチナ


「いくら何でも、ちょっとハンデが大きすぎるよ」

鈍の牙が両手を上げて沈黙を破った。

「鈍とその――美丈夫さん、あんたじゃ差が有りすぎだって」

そう言う牙を鈍は片手で制する。

「いい。俺が勝てばいいんだ」
「それでこそ」

凛音は鈍に片目を瞑った。

「…全く…ムキになってさ!」

牙が手を上げる。

だが凛音の背後から攻撃を仕掛けようと動いていたそれは、蝶の刀の一振りで弾き飛ばされた。

「主が動けなくなると、それに比例して牙も動けなくなる。それが狙いだったな?」「先手を打とうと思ったんだけどなぁ」
「凛音の邪魔はさせん。貴様の相手は俺がしてやる」

次の瞬間、二人の牙は凛音と鈍の視界から消えた。

姿は人の目には追えず、金属の噛み合う音だけが林間を響いていく。

鈍は荷物から解いた刀を片手に凛音を睨んだ。

「ふぅん…」

凛音は鈍の刀を見やる。

それ程長くない刀身。短刀よりは長いだろうが、普通の刀よりは短い。

「君は接近戦が得意なのかな。まぁあれだけの身体能力があるなら…懐に入れれば勝ちだと」

凛音はそう言って微笑んだ。

「ただし戦闘慣れはしていないな」

一気に間を詰めて低く構えた刀を凪ぐ。

鈍は跳ね上がって刃を避けると、そのまま足蹴りを繰り出した。

凛音の頬で肉を打つ鈍い音がする。

「……えっ」

鈍が小さく声を洩らすのを凛音は聞いた。

恐らく避けられると思ったのだろう。

拍子抜けしたような顔をしていた。

凛音は血の混じった唾液を地面に吐く。

「さすがにいい脚をしてる。並みなら吹っ飛ばされるかもな」

そう言って口の端を拭った。

脚は舞手として鍛えられてきたから、一発が重いはず――と鈍は思っていた。

だが凛音はよろめきさえしなかったのだ。

鈍は思わず眉を寄せる。

「君は近距離型の人間だ。だけど相手に隙がなくちゃ懐には入り込めないね。長期戦になるとその体なんかじゃ体力は宛てにならない」

今度は上から刀を振り下ろす。

鈍は構えた刀でそれを受けた。だが眉を更に寄せている。

腕は震えていた。

「そして何より戦闘慣れしていない君は、こんな重い一撃を食らったことがない。力の無い君を相手に――」

凛音が押すと、鈍の刀はあっさりと弾き飛んで行ってしまう。

「刀を手放させるなんて容易いよ」

武器を失った鈍はそのまま地面に転がされ、上を取られて封じられた。








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