ハイヱ ツチナ
4
「いくら何でも、ちょっとハンデが大きすぎるよ」
鈍の牙が両手を上げて沈黙を破った。
「鈍とその――美丈夫さん、あんたじゃ差が有りすぎだって」
そう言う牙を鈍は片手で制する。
「いい。俺が勝てばいいんだ」
「それでこそ」
凛音は鈍に片目を瞑った。
「…全く…ムキになってさ!」
牙が手を上げる。
だが凛音の背後から攻撃を仕掛けようと動いていたそれは、蝶の刀の一振りで弾き飛ばされた。
「主が動けなくなると、それに比例して牙も動けなくなる。それが狙いだったな?」「先手を打とうと思ったんだけどなぁ」
「凛音の邪魔はさせん。貴様の相手は俺がしてやる」
次の瞬間、二人の牙は凛音と鈍の視界から消えた。
姿は人の目には追えず、金属の噛み合う音だけが林間を響いていく。
鈍は荷物から解いた刀を片手に凛音を睨んだ。
「ふぅん…」
凛音は鈍の刀を見やる。
それ程長くない刀身。短刀よりは長いだろうが、普通の刀よりは短い。
「君は接近戦が得意なのかな。まぁあれだけの身体能力があるなら…懐に入れれば勝ちだと」
凛音はそう言って微笑んだ。
「ただし戦闘慣れはしていないな」
一気に間を詰めて低く構えた刀を凪ぐ。
鈍は跳ね上がって刃を避けると、そのまま足蹴りを繰り出した。
凛音の頬で肉を打つ鈍い音がする。
「……えっ」
鈍が小さく声を洩らすのを凛音は聞いた。
恐らく避けられると思ったのだろう。
拍子抜けしたような顔をしていた。
凛音は血の混じった唾液を地面に吐く。
「さすがにいい脚をしてる。並みなら吹っ飛ばされるかもな」
そう言って口の端を拭った。
脚は舞手として鍛えられてきたから、一発が重いはず――と鈍は思っていた。
だが凛音はよろめきさえしなかったのだ。
鈍は思わず眉を寄せる。
「君は近距離型の人間だ。だけど相手に隙がなくちゃ懐には入り込めないね。長期戦になるとその体なんかじゃ体力は宛てにならない」
今度は上から刀を振り下ろす。
鈍は構えた刀でそれを受けた。だが眉を更に寄せている。
腕は震えていた。
「そして何より戦闘慣れしていない君は、こんな重い一撃を食らったことがない。力の無い君を相手に――」
凛音が押すと、鈍の刀はあっさりと弾き飛んで行ってしまう。
「刀を手放させるなんて容易いよ」
武器を失った鈍はそのまま地面に転がされ、上を取られて封じられた。
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