01. 「あーあ、ものっすごい人…どうすんだこれ」 運転席でマキさんが呟く。 ハンドルをトントン、と指で叩いていた。 「いーんだよぉ…ほら、早くしないと駐車場埋まるっつに」 助手席のメグさんは唇を尖らせる。 後部座席の俺と娃月さんは、すでに人で溢れかえる公園を窓から覗いていた。 世間はお花見シーズン。 それに便乗して俺たちもみんなでお花見に来たのだ。 桜が綺麗に咲くので有名な公園に来たはいいが、さすがシーズンというか、みんなが集まってしまう。 すでに公園の至る所でお祭状態だった。 「…あ、屋台出てるんだ」 俺は駐車場までゆっくり走る車から外を見て呟く。 公園には結構な数の屋台が並んでいた。 『お花見なら、たこ焼きがいいよね』 娃月さんがメモ帳を見せながらにこにこと笑う。 「お好み焼きも美味いよ?あ、たこ焼き屋発見」 俺は屋台を見ながら娃月さんに答えた。 娃月さんは外出が意外と好きだ。屋内より外が好きらしい。 「近くは埋まってるな…」 「いいよ別に、歩くんだしさぁ」 「てか公園は人が多すぎ」 「オレが穴場知ってっから!あーも、そこ入れちゃえー」 前の二人はさっきから騒ぎ通しだ。 俺も自然と気持ちがはやる。 もちろん娃月さんたちと出掛けるのも楽しいけど、お花見というと何故かウキウキしてしまうのだった。 「公園じゃなくて…その向こうにさ、オレの知ってる穴場があるんだってば」 「お前の言う穴場とか信用できるわけ?」「できますー!行ったらマジビビるから!マキが驚愕に卒倒するのが楽しみだなぁ!ほんとにっ!」 「どんだけ恐ろしい穴場だよ」 いい大人な二人が騒ぎながら歩く。 それでも周りの方が酷い騒ぎ方をしてるもんだから、全く目立つこともなかった。 『この桜並木歩くだけでも、十分価値があるね』 団子より花、な娃月さんがメモ帳を片手に微笑む。 俺はその向こうで騒ぐ酔っ払いのオッサンたちを眺めた。 「でもやっぱうるさいな。メジャーな場所だと」 『静かに桜なんて見てられないもんね。夜とか静かになるのかな?』 「いや…ここはたぶん夜もこの調子じゃないかな」 すれ違う人は俺を訝しげに見る。 傍目から見たら俺一人で喋っているように見えるんだろう。 それからメモ帳片手の娃月さんのことも興味津々と言った感じに見る。 でも娃月さんはそんな視線を全く意に介さなかった。 「…ん?」 歩きながら俺は一際騒がしい一団に目を向ける。 見知った顔があるような気がした。 『どうかしたの?』 「ん…いや…」 首を傾げる娃月さんに微笑んだ時、その一団の中の一人が顔を上げた。 その顔を見てようやく誰だか思い出す。 明るい茶髪にイマドキって感じの服装。 「…斉藤、だったよな?」 「あ?…お前…秋灘っ」 斉藤は立ち上がって俺に近付いて来た。 「お前彼女いたのか?」 「はい?……いや」 「まぁいいや、弥悠とは一緒じゃないんだな…!よかったわ」 はーっと大袈裟に息をつく斉藤。 何で弥悠の名前が?そういえば周辺には弥悠の姿が見えなかった。 「みゆがどうかした?」 「…里帰りしちった。花見に誘ったらそう言ってた。もしかして俺たちと花見嫌なのかと思ってさぁ。秋灘と出掛けてたりするのかと…」 なぜ俺? 「よかった、マジで里帰りなんだな。安心した。ばいばい」 爽やかな笑顔で輪の中に帰って行く斉藤。一方的に喋って帰ってった… まぁ俺も斉藤に用があるわけでもないし、他の三人を促して再び歩き出した。 [次へ#] |