月が放つ光をみた 町を出て数時間後、私達は森の中で寝ていた。空も暗くなり、今日はこれ以上進むのはよそうとジープを止めて眠ることにしたのだ。 ただし私は、みんなが寝静まっても眠れなかった。兄の事、アイツの事、昔の事…どうしても考えてしまう。辛いのは兄なのに、私が悩んでも仕方ないのに。 どのくらい経っただろう。兄が散歩に行くと言ってジープを離れた。少しして悟浄さんが後を追う。 「はぁ…」 「気になるならお前も追えば良いだろうが。」 「あー…、私のことは気にしないで下さい。」 「そんな馬鹿でかい溜め息つかれれば嫌でも気にする。」 そんなにでかい溜め息をついた覚えは無いと反論をすれば、フンと鼻を鳴らされた。 「…兄さんは、悟浄さんが元気づけてくれますよ。」 「…」 「…」 この無言、緊張する。そういえば、三蔵様とはあまり二人きりで会話をしたことがない(今は悟空もいるが熟睡中だ)。 「えっと…あの、王子様のあの技、凄かったですね。」 「…」 睨まれた。嫌な話題だったようだ。 「そういえばお前、紅孩児に抱かれて来たうえ親しくしてたじゃねえか。なに敵に気に入られてやがる。」 「気に入られてって…。三蔵様こそ李厘ちゃん、でしたっけ。懐かれてたじゃないですか。」 「明らかに好意を持たれていたお前とは違う。」 「好意、持たれてました?」 「…」 「…?」 敵意が無いのはわかるけれど、好意と言われてもピンとこない。 「お前を戦いから遠ざけようとしていただろう。それに最後の…いや、やっぱりいい。」 「えー…。」 今度は呆れられた。何なんだろうか。 「〜〜ない!」 「…!」 「何だ?」 焦りを含んだ兄の叫び。二人が歩いて行った方からだ。 何かあったのかもしれないと、三蔵様は急いで悟空を起こした。 「悟浄!!」 「こっちだ!―――八戒!何があった!?」 「悟浄が…!」 兄が支える悟浄さんは、胸から出血しもがいていた。 「クソッ…。血管の中…をっ、何かが這い廻ってやがる…!」 みんなが訳がわからないといった様子のなか、甲高い声が耳に届く。 「種ダヨ!」 気味の悪い人形がそこにあった。 「ソイツノ身体ニ種ヲ植エタノサ。血ヲ吸ッテ血管ニ根ヲハル生キタ種ヲネ!」 「何だよあれ!?」 「清一色の使い魔です。」 「あの野郎か…。」 清一色の使い魔という人形は続けた。早く種を殺さないと悟浄さんは木になってしまうと。種は心臓のすぐ隣に植わっていると。 「てめぇ、何が目的だ?」 「…カカカカ…カカカカカ!」 嫌悪を含んだ三蔵様の問い。人形は笑いながら返した。 「楽シイ…楽シイヨ猪悟能!!君モハヤクコッチヘオイデヨ!!」 ぞわり、と鳥肌がたつ。もう随分と呼ばれていない、兄であり、兄ではない名前。眩暈が、する。 刹那、銃声と共に人形が砕け散った。 「三蔵…」 彼が人形を壊したのだ。 「…良い御趣味だよ、あの変態野郎が。悟空、悟浄の腕押さえとけ!」 命じられるままに押さえる悟空。それを確認すると、三蔵様は悟浄さんに銃を向けた。 悟浄さんの身体を気遣い兄が制止しようとするが、自分が撃ったら即傷を塞ぐことを兄に頼む。やめる気は無いらしい。 「俺は絶対に外さん。これで死んだら悟浄のヤワな心臓のせいだ。」 どうしてだろうか、結果を知っているからだけじゃなく、この人の絶対は素直に大丈夫だと思える気がする。だから、悟浄さんも…。 「あーすっげムカツクっ、ぜってー死なねえ。」 「減らず口を閉じんと、舌噛むぞ。」 彼は引き金を引いた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |