縁切りの神様
もしも奇跡が存在するのならば@
こうして、成り行きとはいえ吉子を傍に置く事になった宗貞の其の後はというと―――
「ハァ‥……」
より一層恋の病に苦しめられる結果となり、以前よりも少しやつれてしまって居た。
「全く。我ながら安易な提案をしてしまったモノだ。コレじゃあ自分の首を余計に絞めている様なモノじゃないか…‥」
苦々しい口調でそう独り呟いてみせた彼は、歩き慣れた長い廊下をスタスタと早足で歩きお堂へと向かっていたのだが。
「お兄様」
「ッ///」
急に後ろから愛しい女の声が聞こえて来てドキッとさせられる。
更に
「見て下さいまし!!ようやく衣装が届きましたのよ♪」
ニコニコと
弾んだ声で吉子が大事そうに抱えて居た衣装を差し出して来たので。
其処でようやく
己の寺は巫女が不在と言う創立始まって以来の、まさに前代未聞とも呼べる不遇な環境に陥っていた事を思い出した宗貞は
「あぁ、無事届いた様だね。其れは良かった」
と、優しく微笑んでは
愛する妹が差し出して来た衣装にふと目を留めては何気なく眺めてしまった。
実は、此の法雲寺(ほううんじ)も例外に漏れず不況と人員不足で泣かされているのが現状だ。
しかも近年の神仏に対する日本人の信仰離れが相俟って経営は更に悪化。
祖父や父の伝で援助があるとはいえ、其れも期待出来る程当てにはならず。
だから、長らく此の寺には巫女が居ないという異例の事態が起こっていたのだが―――
「ねぇ、お兄様」
「…‥何だい??吉子」
「早速着てみても宜しいでしょうか??」
「!!」
ほわんと
とても柔らかい笑みを浮かべた吉子がそんな事を言い出したので。
思いの外吉子が乗り気であった事にホッとさせられた宗貞は
「あぁ、構わないよ」
と、快く承知してやったのだ。
何せ可愛い可愛い妹のアルバイトを反対して、半ば強引な流れで彼女に巫女の仕事を押し付けたのは他ならぬ自身なのだ。
しかも、愛する女が清楚な巫女の衣装を自ら着てくれるというのだ。
こんなにも喜ばしい事が他にあるだろうか。
否、有る訳が無い。
そう思った宗貞に
ダメだ。
なんて言う理由がある訳も無かった。
しかし―――
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