縁切りの神様 忍び寄る不吉の予兆D そうして 言われるがまま京をお堂へと招き入れた宗貞であったが――― 「お兄様に‥気に成る女性、かぁ」 其の場に一人取り残される形となってしまった吉子は、チクリと胸を刺す様な鋭い痛みに困惑し どうしてか、一歩も其処から動けずに居た――― 「そう、よね。お兄様だって好きな人の一人や二人居ても可笑しくないものね」 其れまでずっと、肉親と呼べる肉親が居なかった吉子にとって 宗貞は実の父以上に特別で一番身近な存在として彼女の心を占めていた。 しかし 「…‥あら??可笑しいわね、喜んであげなくちゃいけない事の筈なのに―――」 此の世で唯一の兄であり 村八分にされていた彼女にとって、最後の心の拠り所であった兄が他人に懸想していると知った此の時。 「もしかして、わたし。お兄様の事を‥??」 吉子は思わぬ形で気付かされてしまったのだ。 兄である男を、知らぬ内に 自分でも気付かぬ内に愛してしまって居た事に。 けれど――― 「ダメよそんなの!!絶対に‥ダメッ///」 兄同様 真面目で自制心の強かった吉子は、自覚した途端泉の様に溢れ出てきた兄への恋情を強固な理性で自分の心の中へと押し留めてみせたのだ。 そして 「諦めなければ。早く‥早くお兄様への気持ちを忘れられますようにっ///」 兄の気持ちなど知る由も無かった吉子は、募る兄への恋心を密かに封じようと決意するのだった。 [*前へ][次へ#] |