縁切りの神様 切れぬ縁、其れを人は運命の糸と呼ぶF 「こんな偶然が果たしてあるのだろうか―――」 感慨深く けれど其の反面、悲しげな声色でそう呟いてみせた宗貞の祖父は其のしわがれた顔に暗い表情を落とす事しか出来なかった。 其の理由はたった一つ。 「お前は知らんだろうが…」 「実は深草少将の本名は良峰宗貞(よしみねのむねさだ)であり」 「そして小野小町の正体は小野吉子とも言われておるのじゃ」 「何と奇妙な。コレはタダの偶然なんじゃろうか」 「其れとも―――」 最後は祖父も言い淀んだ様に 何の偶然なのか、たまたま伝承と被る様に宗貞と吉子の名が故人と一致したので。 一瞬、嫌な予感を覚えた祖父が 「このまま何事も無ければ良いのじゃが……」 と、危惧してみせるが。 「いや、ある訳無かろう。二人はれっきとした血の繋がった兄妹では無いか」 しかし、あの生真面目で女性関係に縁遠い孫が間違いを犯すなど有り得ないと思ったので。 幾ら何でも其れは考え過ぎだろう。と思い直した祖父はブンブン頭を振っては 「儂も随分下世話な事を考える様になったわい」 と、杞憂を願ってわははと笑いながら縁側で湯飲みを啜(すす)るのだった。 其れが杞憂に終わらず、寧ろ祖父の考えた通りの恐ろしい過ちが起こってしまうとも知らずに。 [*前へ] |