縁切りの神様 其れを運命と呼ぶのならB 其れは宗貞の父がまだ若りし頃の話しだった。 「儂がまだ此の寺の住職になりたての頃だ」 同じ宗派の娘との結婚した宗貞の父。 だが、宗貞を産んで程無くして娘は死んでしまい、彼は男手一つで今まで宗貞を育ててきたのだ。 そんな立派な父であるが――― 「人は過ちを犯す生き物だ。だが…其のたった一度の過ちが誰かの人生を狂わせてしまう時もある」 彼は未だに悔いても悔やみきれない過去の過ちに苦しんでいたのだ。 そして、長年に及ぶ父の苦悩を知る由も無かった宗貞が怪訝そうな表情で 「……どういう事ですか??」 と、聞けば。 「聞いてくれるか??宗貞よ。此の父の過ちを……」 父である男はぽつりぽつりと語り始めたのだ。 もう取り返しのつかないであろう、悲しき恋の物語を。 「アレは深々と真っ白な雪の降る寒い日の出来事だった。泊まる宿も無いからと…ウチに一人の女性が宿を求めにやって来た。あの時覚えた衝撃は今でも忘れられん」 ふらりと 女一人で旅に出ていたのかどうかは定かではない。 ただ、やけに美しい娘が一人宿を借りに寺へと駆け込むにはそれなりの事情があるというもので。 其れを言及するなど野暮だと思った宗貞の父は、何も聞かずに彼女を黙って受け入れてやったのだ。 「本当に、美しい人だったんだ」 「……‥」 無論、其処に下心が全く無かったと言えば嘘になるだろう。 「儂は一瞬で恋に堕ちてしもうた」 「そして彼女も儂を愛してくれた」 「当然、二人が結ばれるのに其れほど時間は掛からなかった」 そして三日三晩、其れも記録的な大雪となった其の年の冬。 二人は三日目にして其の冷えた身体を温め合う仲にまで発展してしまったのだ。 しかも――― 「儂は彼女の事が忘れられず、彼女が帰った後もずぅっと彼女の事だけ考えておった」 「そんな儂の想いが天に届いたのか、彼女は再び寺にやって来たのだ」 「腕に生まれたばかりの小さな赤ん坊を抱いて」 何の因果があったのか 彼女は宗貞の父の子をお腹に宿し、其の上あろう事か此の世に産み落として居たのだ。 [*前へ][次へ#] |