君を見る 音が死んだ美術室の中で、僕は独りキャンバスに向かっていた。 夕日が、白いキャンバスを赤く撫でる。 まるで、早く何か描いてくれと訴えているようにも見えるが、 このまま、何も描くなと訴えているようにも見える。 「はぁ……」 目にしみる真っ赤な部屋のなかはがらんとしていて 、 僕の零したため息はやけに大きく、空しく響いた。 こうやっていつも、何も描けないまま時間だけが過ぎ去ってゆく。 どうしても描けない。 ――彼の、笑顔。 僕に笑いかけてくれた、あの優しい笑顔を、 もう、見ることは叶わないだろう笑顔を、 キャンバスいっぱいに描きたかった。 ……そうしないと、その笑顔を忘れてしまいそうで、怖い。 あの笑顔は嘘だったのだろうか? たまに、そんな考えが浮かんでくる。 そう思うたびに、忘れてしまうような錯覚に陥った。 悔しくて、悔しくて、下唇を噛む。 「あ……っ」 ふいに窓の外を見ると、彼が歩いているのが見えた。 金色に染められた髪に、着崩すした制服。 真っ赤な夕日に染まって輪郭を失くしそうなその姿 は、 まるで昔の彼と同じ人間とは思えないくらいに、 人を寄せ付けない雰囲気を出している。 そんな彼の姿に、胸がきゅっと痛んだ。 彼、中村幹夜は、すっかり変わってしまった――――……。 next |