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甘い毒薬





「まだお眠りになられてないのですか?」

暗闇を蝋燭で照らしながら、ラミエルは主人の寝台に近づく。

「ラミエル?……なんだか暑くて眠れないんだ。」

上半身だけを起こし、細い足をベッドの外に投げ出して言う。
先ほど着せたばかりの白いリネンはだらしなくはだけ、
そこから覗く白く華奢な肩やももには汗が光っていて、確かに暑そうだった。

「何か、お飲み物をお持ちしましょうか?」

ラミエルはその姿に目を細めると、機械的に問う。

「あ、じゃあベリージュース。冷たいのね?」

ニコラスは特に気に留めた様子もなく、意味深な笑みをこぼしながら足を揺らす。

「かしこまりました。」

ラミエルは寝室を出ると、冷えた赤い液体の入ったビンと、グラスを取り出し
トレイの上に乗せて運ぶ。

「お待たせしました。」

「早く早くっ」

ニコラスは待ちわびた様にグラスにジュースが注がれるのをじっと見つめている。

「どうぞ。」

手渡されたグラスに口をつけると、甘酸っぱいラズベリーの味が口の中に広がる。
その赤い液体は、ニコラスの柔らかな唇を濡らし、
淫らにこぼれて白い素肌に滑り落ちた。

「んーっおいしいっ」

満足そうに唇を舐めながらグラスをトレイの上に置く。

「何?」

その様子を眺めるラミエルの視線に気づき、ニコラスは艶笑しながら問う。

「いえ、別に。」

「あ、そ。」

予想できていた返答にうんざりしつつ、ニコラスは耐え切れなくなって
ベッドの上に寝転んだ。

「ラミエル……」

まるで全力疾走したように肩で息をしながら、ニコラスはラミエルを睨む。

「なんでしょう。」

「ラズベリージュース……中に何が入ってるか、当ててあげようか?」

挑発的に笑いながら問うと、ラミエルは眉をぴくりと動かした。

「……。」

「あの甘酸っぱい味の中に混ざってても……俺には判るよ。」

舌なめずりしながらニコラスは続ける。

「砂糖の様に甘いけど、血みたいに苦くて……ふふっラミエルには判らないよね。」

昔、毎日のように飲まされたその懐かしい味を思い出すように、
自分の舌を細い指で弄ぶ。
火照ったピンク色の体や頬はつやめいていて、とても艶かしい。

「なんで……なんで入れたんだよ」

右腕を目蓋の上に置いて問う。
その姿には、先ほどまでの挑発的な雰囲気はまるで感じられなかった。

「ねぇ……もっと露骨に誘って欲しいの?
 それとも、俺がこうなるのを見て、楽しんでるの?」

震えそうになる声で、必死に言葉つむぐ。

「答えろよ!ラミエル!!」

自分の中の、不安や困惑を乱暴な口調で隠す。

「……。」

「……。」

ラミエルは相変わらず無言のままだ。
一方のニコラスも、唇を噛んで黙り込んでしまった。

「答えてよ……」

消え入りそうな声で呟くと、近くにラミエルの気配を感じた。

「そんなに唇を噛んだら、血がでてしまいます。」

「……。」

そう言われたので、ニコラスはわざと唇をきつく噛んだ。

「旦那様。」

唇からは、真っ赤な血が滲んできている。
しかしラミエルの声は、いつもの変わらなかった。
表情の読み取れない機械のような声。
でもその声は、その声だけは、ニコラスの心をかき乱す。

「……確かに、ジュースに媚薬を入れたのは私です。」

血の滲んだ真っ赤な唇をそっと撫でながら、ラミエルは観念したように話し出す。

「なぜ入れたか……それは私が、旦那様を、旦那様の身体を、
 犯したい……それ以外になにがあると言うのです。」

きつく噛んだ唇から、口の中に血の味が広がる。

「犯したい……?俺の身体を?」

「そうです。」

「誘いに乗らなかったくせに?」

「あの程度で誘っていると言うのなら、貴方は毎日のように私を誘っていることになる。」

ラミエルは無表情を崩さず言い返す。
するとニコラスは右腕をどけて、大きく見開いた瞳をラミエルに向ける。

「旦那様は無意識のようですが、
 私がどれだけ沸き起こる欲望を我慢してきたか……」

「……本当なの?ラミエル」

「ここで証明してみせましょうか?」

ラミエルはいつもの無表情をそっと崩し、
口角をあげて汗でニコラスの額についた金色の前髪をそっとかきあげる。

「ふふっ・・自分がそうしたいだけのくせに」

にんまりと艶笑すると、その手を自分の頬に押し付ける。

「限界なのは、貴方の方でしょう。」

ラミエルが眼鏡を外して、まだ唇に残った血を舐めとりながら言い返すと、
ニコラスは満足そうに目を細め、ラミエルの首に腕を回した。




「……そうかもね。」







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