お題挑戦・時節企画
SWEET×BITTER(時節企画バレンタインデー遊川)
バレンタインデーとは、好きな男もしくは恋人にチョコレートをあげる日。
少なくとも僕、川末涼はそう認識している。
だから、今このバッグの中で遊部へのチョコレートが揺れるんだ。
「川末ちゃん、おはよーさん」
「…今日は早いんだな。」
今が渡すチャンスかとも思ったが往来なのでやめておいた。
なんとなく良い雰囲気になったら渡そう。
「んー。だって今日はバレンタインデーやで?」
「ん?」
「去年川末ちゃんも経験済みやろ?」
「なにを?」
「覚えてへんの?」
「だから何を?」
それがわかったのは下駄箱についてからだった。
遊部が下駄箱を空けた瞬間、中からチョコレートが流れ出る。
「まるで雪崩だな。」
川末は呆れながら言ったが、実際川末の下駄箱も同じような状態だった。
「……」
「ちょっと位もらってやらへんと女の子が可哀想やで。」
隣の遊部はニコニコ顔でチョコレートを数えている。
川末の胸がちくりと痛んだ。バッグの中のチョコが揺れる。
あんなに可愛い包装がしてあって、きっとすごくおいしい手作りチョコ。
(ぼくのなんて・・・)
敵う訳がないじゃないか。
遊部もきっと男からチョコレートをもらったって嬉しくもないだろう。
放課後
「これで、いいか…」
一通り体育館の戸締りを終えると、川末は遊部が待っているだろう部室へ向かった。
「遊部…」
ドアを開けるとそこにはおいしそうにチョコレートを頬張る遊部の姿。
「川末ちゃん、これなかなか美味しいで。一緒に食べよ?」
泣きたくなった。
(僕だけを見てくれ)
遊部の無神経さに、自分の不甲斐なさに。
相手が女の子だって、遊部の恋人は僕なんだから胸張ってチョコレートを渡せばいいじゃないか。
それさえも出来ないほど、僕は臆病者なのか?
(遊部の瞳に僕だけが映るように…)
そう願ったとき川末の手は自然とバッグの中のチョコレートに伸びていた。
「ほら」
そのまま、遊部に突き出す。
「何…あああああああああ!!川末ちゃんチョコくれんの?めっちゃ嬉しいわ!!!」
遊部は周りのチョコを蹴飛ばして川末に抱きついた。
「粗末にするな。女の子からのチョコレートだろ?」
「ん?俺が一番ほしいのは川末ちゃんからのチョコやもん。」
それは、とても恥ずかしい言葉だったが、遊部の瞳に僕しか映っていないのを確認して…。
僕は安心した。
遊部が僕の額に自分の額をこつんとぶつける。
「川末ちゃんありがと」
「大事に食えよ。」
「はいな」
甘くて苦い中二のバレンタインデーだった。
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