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 ◆

 
 車は走る。

 木々の間から差す夕陽が、指折り数える右手を照らす。
 学園と市街地を結ぶ、森の中の道。ここを通ると、いつも学園に編入してきたときのことを思い出す。
 あれからもう二年。卒業まであと十か月。短いな、と思うし、長いな、とも思う。


 「大体ですね、西園寺のレセプションなんて、龍馬様が足をお運びになる必要もないんですよ。桜庭、貴方が断ればよかったんです」


 助手席の後ろ、すなわち僕の隣に座る彰人が、運転席の晴一に向かって不満げに吐き捨てた。


 「あ゙? 断ったに決まってんだろ。まだ学生なんだから、公には顔出すつもりないってな。司のやつがうるせぇんだよ」
 「知りませんよ、黙らせればいいんです」
 「それに今回のレセプションパーティは古賀の取引先も参加してるからな。将来につながるだろ」
 「コネクションなんてなくても大丈夫ですよ、龍馬様なら」
 「愚痴愚痴うっせえな。帝先輩が出てるのに、こいつが出ないわけにいかねぇんだよ」 
 「だからそんなの……って、はぁああああ!!? 帝様もご出席なさるんですか!?」
 「ぅるせえ!! 聞いてねぇのかよ」
 「聞いてません!! 尚更行きませんよ、桜庭。Uターンして戻って下さい」
 「無理。古賀の次期代表としての責任があるんだよ、こいつには」


 責任、か。

 晴一は卒業後、昼間は調理、夜間はビジネス関連の専門学校に通っている。最初は大学と考えたが、僕の卒業に合わせるために二年制の学校を選んだ。学費や生活費はすべて祖父が出し、今は東京に住んでいる。今日のように、僕が出席しなくてはならない祝賀会や発表会などがあるとき、その送迎ができるようにという配慮だ。
 彰人は"あの"後――…そう、二年前のあの日。僕が入院した日以降、それまで「一切していなかった」らしい受験勉強に着手させ、古賀学園の編入試験を受けさせた。今は僕と同じく古賀学園で暮らしている。高校卒業後、専門学校や大学に通わずとも即戦力となるには、どこの学校よりもこの学園が相応しいと思うからだ。

 その責任が、僕にはある。
 祖父の会社を継ごうと思った。そのために、必要なものがあった。

 縛りつけているのかもしれない、と時折思う。
 ならば尚更、


 「あのですねぇ……」
 「いいよ、彰人」


 この不毛なやり取りを止めるべく口を開く。


 『お前らって、何なの?』


 あのとき答えられなかった。

 今でも答えなんて分からない。正しさなんて分からない。
 けれど僕なりに、見つけましたよ、西園寺先輩。


 「行くから。大丈夫」


 多分。

 おそらく彰人が案じているのは、そのレセプションパーティに学園の生徒が参加している可能性だろう。今、「木崎」龍馬が西園寺グループのレセプションパーティに参加している、という事実は何かと面倒だ。主に釈明が。
 それと、帝さんと僕が接触する、といったところだろうか。あの人は何をしでかすか分からないので、僕もできれば公の場では関わりたくない。「よっ、晶元気?」なんて言われたらたまったものではない。あの人は、晶のことを気に入っているらしい。

 彰人は何度か納得いかないといった表情を見せたものの、「……畏まりました」とシートに身体を沈める。ようやく収まったか、と思いきや、今度はまるで世紀末かというような表情で晴一を睨みつけていた。この二人は、いい加減仲良く出来ないものだろうか。

 ふぅ、と深く息を吐いた。



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あきゅろす。
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