解決篇
「行け、紅の豚!」
チカ先輩がコントローラーを操作すると、背中に羽根の生えた豚はパタパタと飛んだ。
ジグザグに動いているようだが、セキュリティのために設置されている赤外線レーザーを、一時的に無力化させているそうだ。
僕らは夜の学園に忍び込んでいる。
シャツの上からニットベストを着て正解だった。夏とはいえ、夜はまだ肌寒く、無防備な首を襲う風に背筋が粟立った。特待生用連絡通路に現れた先輩たちも、それぞれ防寒しているようだ。
ちなみに、例によって環先輩は不在である。
「夜の学園って何だか怖いよね………。聞こえるかい? あの世へ成仏出来ずにさ迷える魂たちの、悲痛な叫び声が……」
「おいやめろ」
懐中電灯を持ってガンガン進んでいくチカ先輩と桜庭先輩は、何やら楽しそうである。
「木崎、そろそろ教えてくれないか?」
隣を歩いていた桐生先輩が言った。
「犯人も犯行手口も全く分からない。なのに夜の学園に忍び込むだなんて……」
外れていたら嫌なので、僕は自分の推理を黙っていた。
しかし付き合わせた以上、言わずにはいられないだろう。
「最初に気になったのは、佐橋先生の発言でした」
僕は昼間の出来事を思い返していた。
自分の見回り担当時に事件が起こり、責任を感じていた佐橋先生。それでも事件直後よりは幾ばくか落ち着いていたようで、事件の様子を話してくれた。
「上條先生に電話をしたとき、佐橋先生は相当焦っていたのだと思います」
それは電話を受けた上條先生自身もそう言っていた。
ここで二人の証言に矛盾が生まれる。
「佐橋先生は"物音がしたから職員室に行った"のです。しかし、上條先生が言っていたのは」
『――見回りをしている最中に職員室に立ち寄ったら、テストが無かった。それだけの話でしたよ…』
これは仮説に過ぎませんが、と頭に付け加えることを僕は忘れない。
「佐橋先生は焦っていて、"物音がしたという事実を上條先生に告げていない"のではないでしょうか。なぜなら物音がしたならば、」
犯人はその時まだ、現場にいたはずですから。
「なっ……」
「上條先生はそれを知らなかった。だから校内の見回りに出た。それを知っていたなら、職員室を探したはずですから」
いつの間にか、前を歩いていた二人も僕の話を聞いていた。全員に聞かせるよう見渡しながら、僕は自分の考えを述べていく。
「全ては犯人にとって不測の事態でした。犯人は犯行を気づかれたくないはずです」
物音を聞かれたこと。
佐橋先生が職員室に入ってきたこと。
これが最初の不測の事態だ。
これらは佐橋先生が「いつもより早く見回りに出た」ことが原因だと僕は考える。
見回りの時間は決まっている。それを調べて犯行時刻をずらした結果、犯人にとって不測の事態が生まれたのだ。
「二つ目の気になったことは、"空の金庫"でした。――…桐生先輩、もしも桐生先輩が犯人ならば、何故テストを盗みますか」
「俺が?」
桐生先輩は少々悩んで、「転売だな」とぽつりと答えた。
「古賀学園のテスト問題は高く売れると聞いたことがある。カンニング目的以外でテストを盗むなら、それくらいだ」
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