疑念と核心
迎賓室に戻ると、チカ先輩と桜庭先輩の姿がなかった。
「こっちにいるから来てくれないかい?」
二人はモニタリング室にいた。
環先輩はモニタリング室のソファで「ドラえもん」を読んでいる。迎賓室を出る前よりも巻数が進んでいた。
「残念ながら迎賓室は、夜間の電力供給を止められているんだ。犯行シーンの映像記録は残念ながらないようだね」
「一応寮のフロントにも話聞いてきた。この日は夕方六時に門を閉めてたらしい」
「そっちはどうだ」と桜庭先輩に言われたので、僕はペンダントを外した。
「ご苦労さま」とチカ先輩はペンダントからマイクロチップを抜き取り、モニターに接続した。
先ほどの職員室でのやり取りが流れる。
「二人は何か疑問な点はあるかい?」
僕には引っ掛かっていることがあった。
「金庫、ですかね」
「金庫?」
隣にいた桐生先輩が聞き返す。
「はい。金庫はダイヤル式で、ナンバーは教師全員が知っているそうです。ならば犯人は生徒にいると疑うより、教師を疑う方が自然な気がするのですが」
鳴海先生や熊谷先生、そして生徒にまで「生徒の誰かがやった」と浸透している。"自然に"浸透していることが、どうにも"不自然"なのだ。
桜庭先輩は「確かにな……」と眉を寄せた。しかしチカ先輩は「それならば」と、コンピュータを操作した。
別のモニターがパッと点灯する。
「職員会議でのやり取りが原因と考える」
先ほどまでいた、職員室が映し出された。
カメラに映る時間は、少々遡って今朝。
『先生方にお知らせします――…実は昨日、テスト用紙の盗難事件が発生しまして……』
職員室には、教師たちが集められている。その中心に立つ教頭が、重苦しく口を開いた。
教師陣は一斉に騒ぎ出す。
『盗難!?』
『テスト用紙全部?』
『そんな……』
『何でまたそんな事件が……』
『カンニングだ、生徒の誰かが……』
『まさかそんなことが……』
チカ先輩は映像を停止した。
「盗難の理由を考えるなら、真っ先に思い付くのはカンニング目的だからね」
誰かの思い付きが核心の擬態として教師陣に刷り込まれ、それが生徒間に伝わった。
つまり「生徒が犯人」という確信はなく、それは単なる思いつきなのだ。
「他には何かあったかい?」
「………」
僕としては、気になったことが何点かあった。
しかし何がおかしいのか、まだ説明がつかない。
「見え透いた嘘を吐くものだな」
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