--04 関節を押さえているらしく、振り払おうにも腕が動かない。 「……離せ」 「最初の蹴りも効いてる?」 「な、―――ッ!!」 ダン、と足首に踏み潰すような蹴りを入れられ、あまりの激痛に膝が折れた。今の僕は、後ろの男の腕に全体重を支えられる体勢だった。 「やっぱり」 「手こずらせんなよマジで」 床に倒れていた生徒たちも、次々と起き上がる。 「大人しくしろよ」 後ろの男に背中を蹴られ、今度は顔から床に突っ伏した。直前に外れた眼鏡が、誰かに蹴られ飛ばされていく。眼鏡をつけていたらどうなっていたか、と背筋が粟立った。それをまるで気にしないこいつらは、僕がどうなったとしても構わないだろう。これからの事態を想像し、ぶわりと汗が噴き出した。 「諦めろよ?」 「ぅあッ!」 無防備だった背中を激痛が走った。 何とも言えないような感触。ゴムの底、靴。 踏まれている。 「うわ、そこまでするかよお前」 「苦しんでる顔がエロいだろ」 「お前本当ドSだな!!」 全身が痺れるように痛む。 どこかで神経をやられただろうか、指先一つ動かない。 『こちら上ノ宮。キサキ君? 今どこにいる』 ピピ、と右耳から音がした。 マイクを出さなくては。でも右腕が動かない。 「おい、動かないけど死んでねーよな?」 「大丈夫だって。俺脱がせるから順番決めてろよ」 身体を仰向きにされ、シャツのボタンに指が掛かる。抵抗したくても動けない。 触るな。 「……おい」 「何だこの音?」 ミシ、と何かが軋むような音がした。僕に手を掛けていた生徒の動きが止まり、僕はその視線を辿る。 その先にあった視聴覚室の扉が、金属を擦る音と共に枠から外れた。 「な……」 そのままスローモーションで床に落ちていく。 ズン、と身体に衝撃が走った。 「何をしている」 よく通る声が視聴覚室に響いた。 「げ、美作!?」 「おい逃げるぞ!」 「待てよ! 何でアイツが……」 その声を聞くだけで、五人の生徒たちは反対側の扉から逃げて行ってしまった。美作副会長なのだろうか。首を動かそうとするも肩の筋肉が痛み、うまくいかない。 突如訪れる静寂。 『おい木崎? 返事をしろ』 『キサキ君無事かい?』 眼鏡がないからか、はたまた頭を打たれたからか、徐々に焦点が定まらなくなっていく。身体を起こそうとするが、背中が痛くて起き上がれない。 足音が近づいてくる。 「………美作先輩?」 それ以上意識を保つことが出来ず、僕の目の前は暗くなった。 [←][→] [戻る] |