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 西校舎に足を踏み入れた途端、スピーカーを通しアナウンスが入った。


 『それでは新入生の皆さん、優勝を目指して頑張って下さい』


 美作副会長の声に続くホイッスル。
 鬼が放たれたようだ。


 『始まりました新入生歓迎会、鬼に対して上級生は二倍! さて優勝を手にするのはどのクラスか! 解説の大倉さん?』
 『………響、うるさい』
 『悠仁ノリ悪いー! だって僕ら暇なんだも、』


 プツリ、と放送が途絶えた。
 暇を持て余したらしい生徒会の近江 響先輩による実況中継は、おそらく美作副会長によって中断されたようだ。


 『……何をしているんだあいつらは』


 思わず口をついて出たのだろう、桐生先輩の声が聴こえた。


 『暇なら手伝ってほしいものだね』
 『全くだ』
 『何故近江が生徒会なのか理解できないな……お?北校舎三階中央廊下、不審な動きをする生徒を発見』
 『念のため見張ってくれ。晴一は北校舎一階南門に移動』
 『了解委員ちょ』


 目の前で新入生が「捕まえた!」と叫んだ。
 その新入生から逃げていたらしい二年生は、笑顔でカードを渡す。新入生も笑顔で受け取る。


 「ルール違反、本当に発生するんですね」


 そもそもお遊びなのだから、そんなに熱くならなくても。
 そんな意味を込めて呟くと、


 『高校生男児はまだまだ食べ盛りだからね。学食の裏メニューはオイシイ』
 『そーいやあれって何なんだ?』
 『去年はカレー鍋だったらしいね。上ノ宮、第三学年Gクラス益田 孝道を生徒会室にて確保』
 「生徒会室、ですか?」
 『新歓の盛り上がりに乗じて何かを企む生徒もいるからな。チカ、生徒手帳だけ回収して巡回に戻れ』
 『はいよっ。南校舎四階で何か揉めているな。委員長、確認を』
 『分かった』


 邪な生徒も取り締まれ、と言うことか。

 西校舎に見知った顔が目立ってきた。第一学年Sクラスの面々である。


 「木崎、お疲れ」


 上級生が徐々に少なくなっていく西校舎を歩いていると、後ろからポンと肩を叩かれた。


 「委員長」
 「木崎の作戦通りやってるよ。西校舎はもう殆ど人がいないし、今は北校舎に皆押し掛けてる」
 「そうか」


 それはよかった。
 僕の作戦は、最初にクラスの半分を西校舎へ送り込むことだった。先ずは西校舎にいる上級生のカードを回収、西校舎に繋がる全ての連絡通路に見張りを立てる。西校舎は、鬼ごっこのルートとして外されている学生寮を除けば、一番外側ということになるからだ。
 西校舎内部には一人か二人を残し、次は南北の校舎で同じことをする。必然的に上級生は中央校舎に集められるため、残り時間が十分を切ったら、見張りも含む全員が中央校舎に押し掛ける。

 外堀を埋めていく。
 多少の穴はあるが、これで確実にカードを集められると僕は踏んだ。


 「木崎も頑張れよ」


 委員長は胸ポケットからカードをちらつかせて言った。
 ざっと見て、十枚近くはあるだろう。


 「幻のメニューはSクラスのものだ」


 遊びとはいえ、真剣にやらなければならないときもある。




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