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新入生歓迎会
 
 
 『新入生の皆様が一日も早く学園に慣れてくれることを願い―――…』


 全校生徒が集められた講堂は、美作副会長の挨拶の時点でひと騒ぎ起きそうなくらいに賑わっている。
 僕らは黄色い声があちこちから上がるのを、二階席から眺めていた。


 「凄まじいな、今年も」


 柵に凭れた桐生先輩が、げんなりと言った。

 階下ではルールの説明をしている。一年生が鬼で、二三年生が逃げる。捕まった人間は予め配られていたカードを鬼に渡し、講堂で待機。一時間後、カードを一番多く持っていたクラスが優勝だ。
 過度の妨害や、カード強奪はルール違反。違反者は講堂で強制待機となる。度が過ぎた場合は、違反者のクラス全体を失格と見なす。


 『それでは皆さん、是非楽しんで下さい』


 美作副会長がそう締めくくると、その隣にいた生徒会会計の大倉先輩がホイッスルを咥えた。


 「では僕らも行こうか」


 チカ先輩は軽く伸びをして、椅子から立ち上がった。


 「くれぐれも事故のないよう頼むよ」


 桐生先輩の声に、隣に座っていた桜庭先輩も腰を浮かせる。


 「一時間後に迎賓室集合だ」
 「晴一、オーブンはセットしてあるね」
 「何回も言うなっつの! 一時間後に焼ける!」


 今朝、桜庭先輩は紅茶のシフォンケーキの生地を混ぜていた。これは昨日、「一仕事終えたら甘いものが恋しくなりそうだ」と呟いたチカ先輩の意向に基づいている。


 「楽しみにしています」


 そう言うと、桜庭先輩はやや目を丸くし、赤くなった顔をふいと背けてしまった。そこまで怒らなくても、別に馬鹿にしたわけではないのだが。

 すみません桜庭先輩、と言おうとした僕の声に、ホイッスルの音が重なった。


 ◇


 桜庭先輩を引きずるようにして、桐生先輩は南校舎に向かった。
 残されたチカ先輩は「委員長も警戒してるなあ」と納得したように頷いている。何がですか、と問うと「余裕が無いんだよ」とニヤニヤ返された。そんなに危険な行事なのだろうか。

 とりあえず反対側、と北校舎へ向かう。二学年合わせて600名はいるだろう、上級生たちがゆるゆると歩いていた。まだ新入生は講堂にいる。

 僕は一緒に移動していたチカ先輩と、北校舎西階段で別れた。


 『こちら桐生。南校舎二階に入る』


 桐生先輩の声が右耳から聞こえてきた。意外とクリアな音質に、しばし感心する。


 『中央校舎一階を移動中』


 名前は言わないが、低めのハスキーな声で桜庭先輩だと分かった。


 『了解。上ノ宮は北校舎二階を巡回中』


 僕は北校舎三階にいた。
 古賀学園は中央校舎を囲むようにして、南北西に校舎がある。東側は学生寮になるが、鬼ごっこの敷地には選ばれていない。


 「木崎です、北校舎三階から西校舎に移動します」




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