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 ◇


 放課後の南校舎三階。
 最近の僕は此処に出入りしている。


 「いや、ここが風紀の部屋だからだろ」
 「人の心を読まないでください」


 桜庭先輩に出されたお茶に手をつけた。
 今日は玉露に桜の塩漬けが浮かんでいる。季節を感じさせるメニューを出してくるとは、桜庭先輩も侮れない。

 数週間、風紀委員として活動していると、それぞれの役割というものが分かってきた。
 桐生先輩は委員長として全体の指揮を取る。理事会や職員に提出する資料の作成も、桐生先輩の役割だ。
 チカ先輩は情報処理担当。モニタリング室に籠り、500はあるだろうカメラから送られてくる映像を監視している。
 この二人が実際に迎賓室を出て動くことは少ない。それは基本的に、桜庭先輩の役割のようだ。暴走する親衛隊や、生徒間の行き過ぎたトラブルの制圧。二人が籠りっぱなしだから桜庭先輩が動いているのかもしれないが、その辺りは僕の知るところではない。
 しかし逆を言えば、トラブルが発生しない限り桜庭先輩は暇をもて余しているらしく、迎賓室の応接セットで寛いでいる。
 たまに桐生先輩に頼まれ雑用。お茶汲みやコピーが主な仕事内容であり、それはさながらOLのようだ。この経緯から、桜庭先輩=お茶汲み担当の図式が完成されたのかもしれない。


 「完成してねーよ」


 玉露茶を味わっていると、いつの間にか後ろにいた桜庭先輩に頭を叩かれた。


 「痛いです」
 「人をOLとか言うからだ」


 そう言って出されたのは、白餡の練り切り。雫の形をしたピンクと白のグラデーション、尖端には桜の花弁をイメージしたのであろう切り込みが入っている。
 寮の周りは森ばかりで菓子屋などないから、桜庭先輩が作ったのだろう。素晴らしい出来栄えに、僕はしばし感動した。


 「桜か?」


 色々な角度から眺め、桜庭先輩の繊細な仕事に感心していると、桐生先輩が職員室から戻ってきた。


 「流石だな晴一」


 モニタリング室にいたチカ先輩が、ヘッドフォンを外しながら「僕もいただこうか」と隣に腰かけた。そういえばいつも付けているな、と思った。


 「そうだ、キサキ君」


 チカ先輩は思い出したようにパーカーのポケットを探ると、


 「はい、これは君のだ」


 コロン、と僕の掌に何かを落とした。 
 無機質で冷たい感触が伝わる。


 「何ですか、これは」


 改めて見ると、それは指輪のように思えた。赤色の石が二つ、並んで光っている。
 蛇だ。一匹の蛇が自らの尾を噛み、円を描いている。




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あきゅろす。
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