カウントダウン
駅前に、目立つ広告を掲げた眼鏡店がある。木崎はそこへ行ったような気がして、そこから当たってみることにした。
駅ビルにも何軒か眼鏡店は入っている。けれどその店に目星を着けた。余程こだわりを持っていない限り、木崎はその辺り無頓着というか、目についた店に決めてしまいそうだと予想した。この推理には、司も晴一さんも同調してくれた。
日は沈み、飲み屋の灯りにふらふら惹かれるサラリーマンの姿が目立つ。びゅう、と風が吹いて、フードの首元を引っ張って寒さを凌いだ。
「いらっしゃいませ」
全国チェーンのその店は、有名なタレントがイメージモデルとなっていて、テレビのCMで店名を見かけたことがある。制服を身に纏ったお姉さんがにこやかにお辞儀をし、司と晴一さんの顔を見てぽっと頬を赤らめた。恐るべし、イケメン。
「お姉さん、お訊ねしたいことがあるんですが」
「はいっ!」
ボブヘアの店員さんを捕まえ、司は笑みを浮かべ問いかける。背筋をぴっと伸ばすお姉さんは、なかなか面白い。ていうか司、その笑い気持ち悪い。
「今日この店に高校生くらいの男、来ませんでしたか」
「高校生くらい………」
「晴一ー、写真とかねぇの?」
「ねぇよ」
少し後ろで下がって見ていた晴一さんは、行動的すぎる司に半ば呆れたような声を返す。
「写真ぐらい撮っとけよ」と悪態吐く司は(俺の写真とか、持ってないよなお前?)、隣に立つ俺を指差し、
「あ、こんな顔です」
「おい」
「来たような、来なかったような……」
お姉さんは口元に指を当て、うーんと唸る。「何か御座いましたか?」、司の俺様美貌に釣られ、今度は巻き髪のお姉さんが素早く問いかける。
何かあった……といえば、あったんだけど。何と答えればいいか慌てる俺を余所に、司は更に笑みを深くする。
「俺の友人なんですけど。修理に出した眼鏡の引き取りが出来なくなったと言うので、代わりに来ました」
「あ、左様で御座いますか」
白々しいな、畜生。
巻き髪のお姉さんは「それでしたら、お名前いただければ御調べ致します」とノートを捲る。何これ、こんな簡単でいいのか。イケメンだからって油断しちゃいけませんよ、お姉さん。
「木崎です。木崎 龍馬」
「木崎様で御座いますか………そのようなお客様は本日いらっしゃらないようなのですが……」
この店じゃないのか。
「あれ? この店だったような気がすんだけどなー」いっそ素晴らしいほどの嘘を吐き続ける司。ご丁寧に「確かメールで言ってたんだけど……」と携帯まで弄ってみせる。凄いね、お前。
「……古賀」
それまで黙って司にやらせていた晴一さんが、ぽつりと呟く。
「え?」
「古賀。古賀 龍馬です」
「古賀様でいらっしゃいますか……そちらのお客様ですと、午前中に修理にいらしてますね。お間違い御座いませんか?」
「あの、」
「はい。合ってます」
只今お持ちします、と一礼し、二人の店員さんは奥へと駆けていく。
「晴一、さん?」
答えはない。
店員さんはケースごと眼鏡を持って来、「こちらで宜しいですか?」と掲げて見せる。それは確かに、普段木崎が掛けている眼鏡だった。「はい、ありがとうございます」この状況を何とも思っていないのは晴一さんと店員さんだけで、それぞれで会話を済ませてしまう。
隣に立つ司を見上げる。返ってきた視線には疑問が浮かんでいる。
どういう意味?
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