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--04
 
 
 断りきれなかった俺は、そのまま生徒会室へと向かった。本当に体調が悪いわけじゃないのに、何だかサボったみたいで罪悪感を抱く。


 「あれ、木崎?」


 生徒会室のドアに手を掛けると、中から勢いよく開いた。俺より一足早く、木崎が開けたみたいだ。
 声を掛けたのに、聞こえなかったのか。木崎はすっと俺の脇を通り抜けて、歩いて行ってしまった。

 中を覗けば、相変わらずデスクに脚を載せる司がいた。指先がコツコツとプリントを叩いている。……来て早々、何でそんなに苛立ってるんだ。
 ていうか、まっすぐ寮に帰ればよかった。律儀に生徒会室まで来なくてもよかったのに、馬鹿だ俺。


 「何かあったのか?」
 「………いや」


 声のトーンが低い。眉間に皺が寄ってる。指先がプリントを叩く。
 絶対、機嫌悪い。気まずい。本当、来るんじゃなかった。


 「あー……司、さぁ」


 とりあえずこの沈黙を何とかしようと、無意味に口を開く。特に用事もないんだけど、このまま無言は辛い。


 「チケット、誰に渡した?」
 「ぁ?……誰も呼ばねぇよ」


 身近な話題、と思いついたのは、学園祭のチケットの話だ。来校者の人数を把握するために、入場は完全チケット制。要するに学園の生徒が招待したお客さんしか、学園祭には来ることが出来ない。
 しかし司は、誰も呼ばなかったらしく。


 「お前は?」
 「んー………黒崎さんと赤峰さん呼ぼうとしたけど、何かやめた。佑介も呼びたかったんだけどさぁ、最近何か忙しいらしいから」


 最初に思いついたのは母さん、だったけど、仕事で忙しくて無理だろう。他は街で知り合った友達やお世話になった人たちを思いついたものの、佑介は忙しいなんて言うし。黒崎さんと赤峰さんは、何となく誘いにくい。まあ夜の街のツートップが、高校生の学園祭に来てくれるなんてことはないだろうけど。


 「……………」
 「……………」


 沈黙。
 自分から質問したんだから、会話繋げよお前。「ふぅん」とか「そっか」とか、何か無いのか。


 「……………」
 「……………」
 「………あ、のさぁ」


 沈黙、に耐えきれず、再び俺から口を開いた。もうやだ。帰ろうかな。


 「学園祭って、今まで一回も無かったのか?」


 これは、空気を軽くするためだけじゃなくて、本当に気になっていたことでもある。
 この学園がいつ建ったのかは知らないけど、「学園祭」というものが今までに一度もないなんてことはないだろう。皆あまりに「学園祭」について知らなすぎたから、何となく不思議だった。だって学祭といえば高校生活の代名詞(多分)だし、これは金持ちも貧乏も関係ないだろう。


 「一回、あったらしいけど」


 司は紫先輩のデスクまではみ出したおびただしい書類の山の、下の方から資料を引き抜いた。途端にてっぺんがグラつき、慌てて走って行き押さえる。ていうか、こんなに積むな。下から抜くな。ジェンガじゃねえんだよ。




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あきゅろす。
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