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 「あ、そうだ」


 ふと思い出して、自分のデスクに小走りで向かった。大倉先輩の乗せてくれた紙の束。その中から、阿部先輩に渡された一枚を抜き取った。


 「これ、部活動会議で話し合うようにって」
 「え? あぁ、ありがとう」


 紫先輩はカップを一度置いて、二コリと笑い受け取る。
 戸惑ったのも無理はない。だってこういう資料は、まずは生徒会長である司に渡すものだから。今までは普通に司に渡していたし、紫先輩を通すのは今回が初めてかもしれない。
 同じく怪訝そうな顔の大倉先輩の視線が痛くて、俺は誤魔化すようにクッキーに手を伸ばす。ぱきん、と前歯で折ると、ぼろぼろと粉が零れた。


 「あ」
 「………何やってんだよお前」


 向かい側に座る司が、呆れたように言った。
 そしてテーブルの上にあった箱からティッシュを一枚引き抜くと、軽く立ち上がって俺を手招く。


 「ほら、身体こっち寄せろ」
 「……え」
 「ネクタイの結び目にも付いてるから、ほら」
 「あ、っと、ありがと!」


 ばっとティッシュを引ったくり、制服についたクッキーの粉をそこに払い落とす。

 気まずい沈黙が、生徒会室を包んだ。あまりに不自然な自分が嫌になる。

 あの日から、あのパーティの日から。
 俺は司と、まともな接触をしていない。


 ◆


 だって、無理だ。

 あの日俺は、実里さんと司が二人で話しているのを見て、嫌な気持ちになった。やっぱり俺は、認めたくないけど、司が自分のものであってほしいと思っている。好きだなんて言えないけれど、司が俺の方だけ見ていればいいと思ってる。

 ただ、その感情は許されない。
 それは俺が男で、司も男だから。

 いずれ離れ離れになると分かっていて、一緒にいたいと思えるほど、俺は聞き分けがよくない。
 それなら今現在を、このまま楽しく過ごせたらいい。司がいて、紫先輩がいて、近江先輩が大倉先輩がいて。晴一さんがいて木崎がいて。
 この時間を楽しく過ごせたら。


 「―――きら? 晶?」


 名前を呼ばれて、ハッと我に返った。


 「はいっ!」
 「やっぱりボーっとしてるね……疲れてるのかな」


 今俺たちは、北校舎の入り口前にいる。
 俺たち、というのは、紫先輩と大倉先輩、近江先輩に俺だ。これから中等部の敷地まで、担任・鳴海に送ってもらう手筈だ。何故かというと、学園祭のチケットを渡しに行くため。中等部の生徒会への挨拶も兼ねて、こちらから出向くことになったのだ。


 「だ、大丈夫ですよ!」
 「アキちゃん無理しちゃだめだよぉ?」
 「………やっぱり、休んで」


 口々に言われ、うっと詰まる。


 「でも……」
 「三人で平気だから。司が生徒会室にいるはずだから、あいつの手伝いしてやって?」


 ね?と諭すように紫先輩に言われ、俺は頷いた。
 気を遣わせるのは、好きじゃない。





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あきゅろす。
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