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そういえば、と話を振ると、木崎は何とも言えないような苦い表情をした。え、何かごめんなさい。
「ていうか木崎って実家何やってるの」
上半身を捻り、俺の机に頬杖をつく有坂は、進路調査書を丸みのある文字で埋めながら言った。木崎は片眉を上げたけれど、特に何か思っているようには見えない。
「自営業と、兼業主婦」
「じゃあ後継ぎ?」
「それはないな」
木崎がばっさりと切ると、有坂は目をぱちくりとさせた。後継ぎが当たり前のこの学園では、木崎の態度は驚くべきことなのかもしれない。
「じゃあ進学とか? でも木崎なら逆に進学しなくてもよさそうだよね」
待って有阪。木崎なら、って何。
「だって頭よすぎだし。大学で勉強することなさそう」
「………確かに」
ちょっと癪だけど、事実は事実で仕方ない。
「おい騒ぐなー。とりあえずその紙提出して、次のテストに備えとけよ」
とっくに賑わう教室に、鳴海の声とチャイムが重なった。ナイスタイミング。鳴海は面倒臭そうに姿勢を崩し、教室を去っていく。
提出期限はテスト明け。
俺は進路調査書、と書かれた白い紙を掲げ、うぅんと唸った。
◆
「僕は後継ぎだよぉ?」
きょるん、と首を傾げる近江先輩。きょるんと傾げる、って何だ。でも実際そんなイメージだから仕方ない。
「………後継ぎですか」
「うん。食器の輸入なの」
近江先輩の実家の稼業を、初めて聞き驚く。失礼ながら、近江先輩が食器の輸入に携わっている姿は想像がつかない。
「響。似合わない、よね」
「え」
そんな俺の心理を読んだらしい大倉先輩が、ぼそぼそと呟く。
「悠仁ひどいー!そんなことないよね?ね?」
「あー………ははは」
すいません、そんなことなくないです。
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