--02 そういえば、と話を振ると、木崎は何とも言えないような苦い表情をした。え、何かごめんなさい。 「ていうか木崎って実家何やってるの」 上半身を捻り、俺の机に頬杖をつく有坂は、進路調査書を丸みのある文字で埋めながら言った。木崎は片眉を上げたけれど、特に何か思っているようには見えない。 「自営業と、兼業主婦」 「じゃあ後継ぎ?」 「それはないな」 木崎がばっさりと切ると、有坂は目をぱちくりとさせた。後継ぎが当たり前のこの学園では、木崎の態度は驚くべきことなのかもしれない。 「じゃあ進学とか? でも木崎なら逆に進学しなくてもよさそうだよね」 待って有阪。木崎なら、って何。 「だって頭よすぎだし。大学で勉強することなさそう」 「………確かに」 ちょっと癪だけど、事実は事実で仕方ない。 「おい騒ぐなー。とりあえずその紙提出して、次のテストに備えとけよ」 とっくに賑わう教室に、鳴海の声とチャイムが重なった。ナイスタイミング。鳴海は面倒臭そうに姿勢を崩し、教室を去っていく。 提出期限はテスト明け。 俺は進路調査書、と書かれた白い紙を掲げ、うぅんと唸った。 ◆ 「僕は後継ぎだよぉ?」 きょるん、と首を傾げる近江先輩。きょるんと傾げる、って何だ。でも実際そんなイメージだから仕方ない。 「………後継ぎですか」 「うん。食器の輸入なの」 近江先輩の実家の稼業を、初めて聞き驚く。失礼ながら、近江先輩が食器の輸入に携わっている姿は想像がつかない。 「響。似合わない、よね」 「え」 そんな俺の心理を読んだらしい大倉先輩が、ぼそぼそと呟く。 「悠仁ひどいー!そんなことないよね?ね?」 「あー………ははは」 すいません、そんなことなくないです。 [←][→] [戻る] |