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 いや、僕が困る必要などどこにもない。
 というか、何故そこで照れる。一応本音ではあるのだが、社交辞令やお世辞のような意味合いで受け取れ。お前の見た目は完全なる不良だが、中身は意外と良識のある人間だ。だから照れるな。気づけ。


 「………」
 「………」


 何となく、気まずい。

 自慢ではないが、いや自慢出来るような事柄ではないのだが、僕は「気まずい」空気に遭遇することがあまりない。というか、たとえその場の空気がどれだけ悪かろうと、それが自分のせいであろうと、無かったことにする。何故自分が「気まずい」などという感情を抱かなくてはいけないのかと、理不尽な怒りすら覚える。
 そうだ、何故僕が「気まずい」と思わなくてはならないのだ。そもそもこれは「気まずい」のか。晴一が勝手に照れているだけじゃないか。いや、何故照れているのだ。何となく分かるような気もするが、普通は社交辞令の類と受け取るだろう。何故今日に限ってそのまま受け取ったのだ。


 「………ばかやろう」


 少々伸びてしまったうどんを箸でつまみながら言うと、隣から吹き出すような声がした。


 「何。急に」
 「こっちの台詞だ。照れるな気色悪い」
 「きしょ……ッ!」


 温かいものを食べていると鼻がむずむずしたので、ティッシュを二三枚掴んで鼻をかんだ。再び土鍋からうどんをお椀によそい、ずるずると啜る。
 もう丁度良く冷めていたので、お椀に移さず土鍋ごと掴んで食べることにした。腿の上にトレーを置き、そこからうどんを箸でつまむ。少々行儀が悪いが、「風邪だから」と自分を許すことにした。


 ◇


 「校医の設楽呼ぶか?」


 食後、薬を飲もうとグラスを傾けると、晴一が思いついたように言った。


 「呼べるのか?」
 「寮に医師免許あるやついないから、呼べば多分来る」


 保健医の設楽先生には、何度か世話になった。大怪我をしたことはないが、絆創膏を貰いに行ったりすると、笑顔で対応してくれるので好感を抱いている。
 しかし学園に常勤の保健医が医師免許所持とは。意外と本格的なのだな、と感心した。


 「どうせ薬処方されるだけだけど」
 「一応頼む」


 コードレスフォンを渡すと、晴一の表情筋は明らかに強張っていた。「自分で電話しろ」ということなのだろうが、知らない。

 寮に備え付けの電話は、部屋番号をプッシュするだけで寮内の全室に繋ぐことができる。また、学園内に設置してある電話にも、一部繋がるのだ。学園外へ電話を掛ける際には使用出来ないのが難点である。


 「設楽? ちょっと寮まで来、………おい、後ろに誰いんだよ」




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