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そう思うと、ますます寒く感じられる。
思い込みとは恐ろしい。が、思い込みではなく実際に寒いと身体を震わせると、頭からばふっと何かが被さった。
「着ろ。出来たら持ってくるから」
重たいそれをずるずると引っ張ると、寝室に置いてある布団だった。
ありがたがってマント状に肩から被った。少しはましになるかと思ったものの、寒気は一向に収まらない。
「晴一」
「ん?」
「卵も乗せてほしい」
「卵?………ん、あるから大丈夫だ」
「餅も」
「餅!? ねーよ!」
宣之さんの作ってくれたうどんには、餅がぷかぷかと浮いていた。最初は「炭水化物の二乗じゃないか」と思っていたのだが、食べてみると意外と美味しい。
しかし餅というものは、何故あんなにも美味しいのだろう。日本の食文化には欠かせないものであり、同時にそれを食さんと命を落とす人間が後を絶たない。それでも日本人は毎年賀正を迎えると、命懸けでそれを貪るのだ。
餅。それは日本で最も美味く、最も危険な食べ物哉。
出てきた味噌煮込みうどんに餅は乗っていなかった。
「さすがに餅はねえわ」
鶏肉と葱、椎茸、鳴門が濃い汁の上にぷかぷかと浮いている。内心ひどくがっかりしたが、季節柄仕方ないと諦めた。
「いただきます」
僕は箸を持って両手を合わせた。
「お前そういうの言うんだな」
「………何だ急に」
「や、いきなり何も言わずに食べ始めそう」
「食前の挨拶は五穀豊穣、八百万の神様へ感謝の気持ちを込めて言うのだと」
鳴門をつまみ、冷ますためにふぅと息を吹きかけた。
「市川が言っていた」
口に含むと、ほどよくしみ込んだ味噌の味が広がった。
「お前ら仲良いの?」
「一応」
土鍋のうどんをお椀に移した。晴一も食べるかと隣に視線を送るが、「いやもう朝飯食ったから」と拒否されたため、独り占めすることにする。後で泣いて喚いても、絶対に分けてはやらない。
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