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僕の息が掛かった部員にちょーっと吹き込むだけ。
口裏合わせて騙したのさ。
「それがどうかしたのか?」
「口裏合わせた割りに、武宮派と米倉派の発言はくっきり分かれていますね」
「まあ確かに……」
「武宮氏は、武宮派の人間にのみ、口裏合わせを頼んだのです。というかおそらく、狂言事件に米倉派の人間は関わっていない。ですから米倉派、並びに武宮氏本人が"視た"白いもやは、」
幽霊。
「ミイラ取りがミイラに……といったところでしょうか。幽霊は存在したのです」
「そんな馬鹿な話が……」
「僕も先ほど視ました、白いもやを」
今度こそ、チカ先輩がはっと顔を上げた。
チカ先輩はもしかするとあの日、僕と科学室に向かった日、白いもやを視ていたのではないだろうか。確信ではないが、そう予測することは出来る。
「米倉派の部員、並びに僕の見た白いもやの証言は、大きさなど完全に一致している。霊は、いるのです」
「チカの出番じゃないか」
その瞬間、凛と張りのある声が響いた。
「………環」
「幽霊なんだろう?」
環先輩が、また良いタイミングで迎賓室の入り口に立っている。
チカ先輩はギッと目を見開くように、環先輩を睨んでいる。こんなチカ先輩を初めて見た僕は、その怒気にたじろいた。時折笑いはするものの、常にどこか冷めたようなチカ先輩が、激情を露にする光景など普段は思いつきもしない。現に今こうして見ていて、驚きに似た思いもある。
「上ノ宮との縁は切れている。僕はやらない」
「でもチカは"上ノ宮 千景"じゃないか。使えるんだろう?」
「………ッ」
会話の意味が分からず、桐生先輩そして晴一を見た。二人もわけが分からないという風に肩を竦める。
やがて沈黙していたチカ先輩が、はぁと大きなため息を吐いた。
「"上ノ宮"の姓は、本来神々の宮を指す」
観念したような、まるで怨むような声だった。
神様の宮。
その名が掲げる意味はきっと、重い。
「神ノ宮家は、古来より八百万の神々にお仕えする、呪(まじない)の一族だ」
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