--02 僕の息が掛かった部員にちょーっと吹き込むだけ。 口裏合わせて騙したのさ。 「それがどうかしたのか?」 「口裏合わせた割りに、武宮派と米倉派の発言はくっきり分かれていますね」 「まあ確かに……」 「武宮氏は、武宮派の人間にのみ、口裏合わせを頼んだのです。というかおそらく、狂言事件に米倉派の人間は関わっていない。ですから米倉派、並びに武宮氏本人が"視た"白いもやは、」 幽霊。 「ミイラ取りがミイラに……といったところでしょうか。幽霊は存在したのです」 「そんな馬鹿な話が……」 「僕も先ほど視ました、白いもやを」 今度こそ、チカ先輩がはっと顔を上げた。 チカ先輩はもしかするとあの日、僕と科学室に向かった日、白いもやを視ていたのではないだろうか。確信ではないが、そう予測することは出来る。 「米倉派の部員、並びに僕の見た白いもやの証言は、大きさなど完全に一致している。霊は、いるのです」 「チカの出番じゃないか」 その瞬間、凛と張りのある声が響いた。 「………環」 「幽霊なんだろう?」 環先輩が、また良いタイミングで迎賓室の入り口に立っている。 チカ先輩はギッと目を見開くように、環先輩を睨んでいる。こんなチカ先輩を初めて見た僕は、その怒気にたじろいた。時折笑いはするものの、常にどこか冷めたようなチカ先輩が、激情を露にする光景など普段は思いつきもしない。現に今こうして見ていて、驚きに似た思いもある。 「上ノ宮との縁は切れている。僕はやらない」 「でもチカは"上ノ宮 千景"じゃないか。使えるんだろう?」 「………ッ」 会話の意味が分からず、桐生先輩そして晴一を見た。二人もわけが分からないという風に肩を竦める。 やがて沈黙していたチカ先輩が、はぁと大きなため息を吐いた。 「"上ノ宮"の姓は、本来神々の宮を指す」 観念したような、まるで怨むような声だった。 神様の宮。 その名が掲げる意味はきっと、重い。 「神ノ宮家は、古来より八百万の神々にお仕えする、呪(まじない)の一族だ」 [←][→] [戻る] |