はじめはいつもと同じだった。 やることもなく椅子に腰掛け机に寝そべり携帯をカチカチいじる。夏休みなんてそんなもんだ。動くのがだるい。携帯いじるか寝るかの選択肢しかないって女子高生的にどうなんだろう。一昨日なんて寝まくっていたら一日の中で起きていたのがたった4時間だった。さすがに驚いたわ、あれは。ナマケモノもびっくり。それでも夜9時に寝れるんだから私ってツワモノだよね。 母さんも父さんも仕事で兄ちゃんは部活。普通ならやっほー家に誰もいないぜクーラーがんがんにしてテレビ見ながらおやつ食べてやる!となるんだろうけど(あれ、これ普通なのか?)私は無理。とにかく動きたくない。 母さんだけ昼に帰ってきて昼飯を作ってくれた。いつものことだけど。チャーハン食べてそのままゴロゴロ。母さんがいなかったら私はご飯すら食べなかっただろう。 食べてすぐゴロゴロしてると牛になるわよ、と言われて豚じゃないの?と返す。あれ、本当にどっちだかわからなくなってきたよ私。そう考え込んでいると母さんが掃除機をかけはじめた。母さんは気にならないの!?とりあえず掃除機がうるさいから部屋に戻った。新しいの買ってほしい。うるさくないやつ。今度は寝よう。豚でも牛でもなんでもこいや。一番好きなのは鶏肉だけどね。そう母さんに言ったらあんた安上がりね、と言われた。おいしいじゃんから揚げ。 話の通じない母上だ、と思いながら部屋に入る。ベッドにくたぁっと横になって目を閉じる。必殺のび太殺法だ。横になって3秒で寝ること。 もう夢の世界へ旅立とうとした時、なにかがガタン、と音を立てた。うっせぇな時計でも落ちたの?とそろり、と目を開けば何か大きな物体。見たところ人間だ。 「どちら様で?」 「え?あぁ、邪魔してるぜ」 「おかまいなく」 人がいんのに寝っころがってんのはちょっとな、と上半身を起こす。微妙に成り立っていない会話をしながら目の前の人物を凝らし見た。 「………アニキ?」 「あ?なんで嬢ちゃんがその呼び方すんだよ」 うん、間違いなくアニキだ。アニキって言っても兄ちゃんのことではない。この目の前にいる人は、大人気ゲーム戦国BASARAに出てくる長曽我部元親、その人だ。銀髪を前に落ちないよう後ろに立て、左目を逆三角形の眼帯で隠す。そして上半身の前はほとんど服に隠れていなくて。こんな人他にはいない。この露出しまくったかっこをコスプレでするとは思えないし。 「…なぜ?」 普段何事にも動じない私だが流石にこれは焦る。え、おかしくね?なんでいんの?私の頭が沸いてんのかな?あ、夢か。さっき私ベッドにねっころがったもんね。覚めろ覚めろ覚めろ、とタンスに両手を当て頭をガンガン打ち付ける。あ、でもアニキとまだ話したいな。 「何やってんだよ、落ち着け」 「いやいや落ち着けないよこれは。この状況で落ち着いていられる人がいたらその人は神だね、うん」 アニキに肩を掴まれ引っ張られ、タンスと離れる。あれ、おでこ痛いんだけど。夢なのに。夢だけど、夢じゃなかった!なんていう某アニメ映画の言葉は吐きたくない。 「あ」 「?」 「あなたいやに落ち着いてますね。……あぁ、アニキじゃなくて神だったのか、あなたが」 なーるほどね、納得。って納得できねぇよ!机の上に開きっぱだった雑誌を思わず床にたたき付ける。ちなみに兄ちゃんの部屋からさらってきたジャンプである。 「だから落ち着けって」 私が何かしないように(っていうか暴れ出さないように)アニキが私を後ろからはいがじめにする。うおお、アニキの素晴らしい筋肉が私に触れているよ、って私は変態かっつーの! 「…ごめんなさい、取り乱しました。離しても平気ですよ」 「ああ」 疑うこともせずすっぱりと離してくれるアニキ。私は疑われないの嬉しいけどさ、それ戦国を生きる、しかも多くの人々を束ねる人としてどうなの? そんなことを思っているだなんて悟られないようにアニキにいろんなことを話した。ここはアニキがいた時代より何百年も後で、世界もちょっと違うこと。アニキはこの世界で有名な人だってこと。アニキは驚くほど素直に真剣に聞いてくれ、納得もしてくれた。 そして、私はアニキの話しを聞いて鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしてしまった(自分ではもちろんわからない。アニキが言ってた)。アニキは、襖を開けてその部屋に入ったとたんにここに着たらしい。 ………何故そんなに冷静なんだ。そう聞いたら殺気とかなんかそういう殺伐としたギスギスした雰囲気がなくて、おまけに私がものすごいアホ面をしてからだそうだ。失礼だなアンタ。 新天地に夢想は埋まる (にしても嬢ちゃん、その格好は女としてどうかと思うぜ?) ((キャミに短パン……)別にいいんですよ何かが減るもんじゃないし) (…減るだろ、色々(貞操の危機だろうが!!)) (?ってか、アニキの方が露出高いと思いまーす!) [←][→] [戻る] |