目の前で泣きそうになっている女にイライラする。そんなになるなら来なけりゃいいじゃねぇか。チッと舌打ちすればびくりと肩を震わされて。眉間にシワを寄せた。 こいつの名前はえーと、なんだっけ?忘れた。クラスメイトなのは確かだ。あ、そうだゆきなんとか…幸村?いやいやいやまさか。部長とこの女が同じ苗字とかありえねぇだろ。幸村なんて苗字滅多にない。 …この女は珍しく、本当にめずらしーく俺に猫撫で声で話し掛けて来る奴ではなかった。まあ接点がないで終わらせればそれだけなんだけど。まあとにかくこいつは俺にとって好印象に近かったわけだ。でもそれもいまここで終わり。こいつの目当ては幸村部長、はいそれだけ。 「まあ驚いたっちゃ驚いたな。お前みたいな大人しそーな奴がここまで乗り込んで来るとは、さ」 「切原、君?」 やっぱりおもいっきり勘違いしてるよこの人!目の前の女がそんなこと思っているだなんてわかりもしない俺は、いかにしてこいつを傷つけるかを考えていた。さすがに手は出せないから、口で。 「お前みたいな奴が幸村部長に構ってもらえると思ってんの?取り柄とかなんにもなさそーなお前が。思い上がってんじゃねーぞ」 「っ」 一気に顔から血の気が失せていく(元から白い顔はしていたけど)女にざまあみろ、と内心嘲笑う。目を潤ませていくのを見て、あと一言でこいつは泣きながら走り去っていく、と核心を持った。 「何をしている」 「柳せんぱ、」 「蓮二、くん?」 急に聞こえた声に出かけた言葉を引っ込める、と同時に目を丸くした。 こいつ今、柳先輩のことをなんて呼んだ? [前へ][次へ] [戻る] |