novel 俺が王子で、俺が騎士。 side S ゆきを見たとき、女の子かと思った。物心つくころかな、幼稚園の女の子たちと比べても、ゆきは特別可愛くて。 母さんが言った。 「雪奈くんは可愛いから、秀治が守ってね。」 その時の俺の頷き方は多分、人生で一番大きいものになると思った。 ゆきを守る、そう決めたとき、改めてゆきを見て、俺はゆきに恋をした。 可愛い王子を守る騎士は、王子に恋をしている。 「ゆき、ゴミ箱あさってなにしてんの?」 「回収作業。」 ゆきは昔から容姿が変わってない。可愛かった。と言うか、美人になってきた。だから、男でも構わないって感じの男がゆきに告白をしまくる。気分悪い。そのせいでゆきは、女共からいじめを受けている。でも俺はゆきと関係を壊すのが怖くて、告白はしてない。だからその告白の嵐から守ることが出来ない。俺が付き合っていたら、いじめもないかもしれねぇのに。 「あー、いつもの?懲りないねぇ。」 「…こんな容姿に生まれたくなかった。」 「何言ってんの?ゆき紙じゃないだろ?」 そう言って馬鹿みたいなことを言う。ゆきは俺をものすごい馬鹿って思ってるけど、常識くらいわかるよ。呆れた顔で、違うよ、と言ってゆきが笑う。それだけで俺の心は単純に、ゆきを救えたと暖かくなるんだ。 「手伝う?」 「いい。大丈夫。」 強がってるのは分かってる。プライド高いし。ゆきが全て拾い終えるまで、俺は隣に立っていた。 次の日、ゆきの机はマーカーでぐちゃぐちゃに落書されていた。…さすがにこれは、やりすぎだろ、書いていいことと悪いことがある。男女、女男、無性別、胸なし下なし。最後のはちょっと笑ける。馬鹿っぽい。 ゆきを見ると、何かに怯えている子犬のように体を震わせている。泣きそうになってる。 「…ゆき、」 「是近くん、相楽くん庇うんだ?」 「庇う……?」 「やっぱりデキてんじゃないの?」 そう思ってくれてありがとう。でも残念、そうじゃない。多分ゆきが今考えていること、俺を巻き込まないように反発しようと思ってるはずだ。 「秀治は、関係ないだろ……!」 案の定、ゆきはそう言った。 「ならいうこと聞ける?」 「……何だよ。」 「脱いで。」 最近の女は怖いな。キレたゆきの方がもっと怖いけど。ゆきは震えている。唇を噛み締めて。大丈夫、無視しとけって言えばよかった。ゆきが、カッターシャツのボタンを外し始めた。男も女も、外にだって居るってのに、ゆきは本気で脱ぐつもりだ。ゆきの裸を、俺は誰にも見せたくない。…って、最近ゆきの着替えとか見てないから、このごろのゆきがどんな体格になったのかすげぇ気になるけどね。 「ゆきやめ」 「黙ってろ。」 震えてんのに強がるなよ……。でもゆきは有言実行。カッターシャツを脱いで、下のTシャツも脱いだ。……誰だ今口笛吹いた奴。ぶん殴るぞ。それにしても、ゆき痩せたんじゃねぇの。あんな綺麗に腰のくびれ、なかったろ。筋肉のつき具合も悪いし、最近食ってないみたい。このいじめのせいか?俺にくらい、話してくれよ。 「下も脱いでやろうか。見たいんだよね?」 おいおいそれはヤバいだろ。廊下の奴窓から身を乗り出すな。絶対見せねぇよ。俺だって見てねぇんだから、こいつらと見るタイミング一緒とか死んでも嫌だ。 「やれるもんならやってみなさいよ!」 「止めなよ、さすがにそれはやばいって。」 うん、ヤバい。 「やるって言ってんだからやらせればいいのよ!!」 そんなこと言ったらゆきは負けじと脱ぐからほんとやめてくれ。案の定、ゆきはベルトに手をかけている。嫌われる覚悟でするしかねぇか。ゆきの下半身露出は俺が守る。 「ぅわっ!!」 「あ、棒だ。」 俺はゆきの股間を触る。余程恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして狼狽えている。久しぶりに見た。相変わらず可愛いな。 「ちょ、秀治……!」 「お前等も触るー?つかゆきちっさ……」 「やっ、もぅ…触んな……」 びくびく震えながら、ゆきは目を潤ませている。感じてるのか、声も震えていつもより高い。俺が危ない。勃起する。こんなゆき見たら、興奮しない訳ないだろ。 「感じてんの?やらしいな……」 余裕見せとかないと。下半身の制御に全神経を注ぐ。怖いのか、ゆきは目から涙をこぼした。泣かせたのは俺。ごめんなゆき。どう守ればよかったかな…。でも他の奴にゆきは泣かせない。腹立って教室の全員殴りそうだし。 力が抜けたのか、ゆきは俺にもたれ掛かってきた。歩けないな、これは。俺はゆきを抱き上げ、とりあえず保健室に行こうと考えた。 「秀…っ、なに、すんだ……」 「ゆきは俺のだから、あんま勝手に泣かすとか許さねぇよ…?」 いじめの主犯の女を睨みながら、俺は言う。ちょっと嘘ついた。俺の物にしたいけど、まだ出来てないんだよね。潤んだ目、ほんのり染まった頬、困惑したようにたれている整った眉毛。あーくそ、可愛い。ちょっと保健室で襲っていい?ゆきの全部が欲しい。俺はそんな欲望をぐっと抑えて教室をあとにした。 「とりあえず保健室行こうか。避難避難。」 ゆきはまだ震えている。怖かったよな、みんなから攻められたようで。俺まで変なことした。俺のこの腕にいるのも、きっと怖いに違いない。 「服は後で取ってくるから、ね?」 優しい声音で囁いてやる。よくよく考えると、ゆきに何も着せてないし。ゆきは顔を上げず、俺のカッターシャツを握りしめた。きゅん、と来たのは言うまでもない。 「…秀治、」 「ん?」 「……ありがと…」 「…うん。」 当たり前だ。俺がゆきを守るのは当然だろ?ゆきは俺に守られていればいい。この腕の中にいればいい。ゆきは俺が、命に代えても守るから。なぁゆき、この気持ちはいつ伝えたらいいんだろうな。俺がゆきを好きだって気持ちは。 「いじめの主犯って、誰?」 ゆきを保健室で保護してもらって、服を取りに来たついでに聞いてみた。とりあえず、腹が立ってる。 「女だろ?どうせかっこいい奴全員ゆきに行くもんだから面白くないって。」 しんとしてる教室。 一人一人、殴ってやろうか。 「おーい、さっきの勢いはどうした。さっさと言えよ。なぁ、口笛吹いた奴いるよな。誰?」 何でみんな黙ってんの。 ほんと、質が悪い。 「黙ってないでさっさと言えよ。俺そこまで気ぃ長くないし、保健室でゆき待ってるし。」 そう言いながら教卓を蹴る。ガンッと鉄の音が響いて、女子がびくっと震えた。中には泣きそうになっている子もいる。そんなの知るか。ゆきの方が怖かったんだ。辛かったんだ。ずっとずっと。強がりで泣き虫なのに、強がって泣かなかったんだ。泣き虫のカテゴリー無くしたんだ。ゆきは我慢しまくった。そんなお前らは、我慢できねぇの?俺一人がキレてることに、怖くて涙が出るのか。 「…一人一人殴っていかないと、言わねぇかなぁ……。」 俺は近くにいた奴の顔面を殴り飛ばした。真面目そうな顔。こんな真面目っぽい奴居たんだ。ゆきと特定の友達にしか興味向かないってのが俺の欠点だったりする。人付き合いは悪い方。だから友達以外は問答無用。がんがんと気持ちのいいほど拳を振るう。 悪いけど、女子にも手加減はしない。まぁさすがに、顔は殴らないけどね。だから腹を蹴り飛ばした。うっと口を抑えてる。ゆきと殴る蹴るの喧嘩をした俺にも分かる。これ、吐きそうになるほど痛いよね。 「なぁ君、誰か分かるかな。ゆきいじめようっつった奴。」 女子の目がある方向に向いた。その先にいたのは5、6人の女子のグループ。…確かあの中に、俺に告って玉砕した奴が居る。もしかしてそいつかよ…くだんねぇ……。 「蹴ってごめんな、ありがと。」 そう謝って、俺はグループに近付く。女子が震えてる。ムカつく。俺一人にビビってんなよ。 「主犯誰?まぁ分かりきってるけど。」 とりあえず笑顔を崩さないように。ここでキレたら、またこいつらに泣かれる。面倒くさいことは嫌いだし。 「坂部、お前か?」 因みに坂部が俺に告ってきた奴。黒髪美人と言うところか、結構好みの顔はしてんだけど、性格が絶対合わない。俺はっちゃけすぎた奴、あんま好きじゃねぇし。 そう聞くと、坂部と俺を睨む。おいおいなんだその目。お前だったら顔面殴ってやりたいよ。 「酷い振り方してソレ?あんたの好きな人に嫌がらせして何が悪いの?」 「関係ないだろ、ゆきは……!つかお前こそ、仲間に助けてもらえないとイジメもできねぇのかこの根性無し。」 「酷い…!!まだ根に持ってんだから。相楽くんよりも私が何もかも劣ってるから付き合えないって…?そんなわけない。」 「自信過剰って言葉知ってるか。それに俺は正直に言ったまでだ。お前性格悪いし。俺はゆきみたいな子が好みだし。」 「…あんな人いなきゃよかったのに……」 その瞬間、何かが弾けた。頭で切れる音がした。もう知るか。気がつけば、その女の胸倉を掴んで、睨みつけていた。 「ふざけんな…、ゆきだって望んであの容姿になったわけじゃねぇんだよ……!!」 そう言って、俺は女を突き放して教室を出て行った。あんなところ、居たくない。 つーか、ゆきを泣かした原因はまた俺か。……最悪だ。ここで腹を決めるか、ゆきから離れるか……。 …俺はゆきを傷つけたくない。 保健室に着いて、ゆきは寝ていると聞いてベッドに近付く。落ち着いたようで安心した。ふんわりとした髪を梳いてやる。ゆきは気持ちよさそうに寝顔を柔らかくした。 …ゆきが辛いなら、俺はゆきをその辛さから、助け出してやんねぇと…… なぁゆき、どうしようか……。 好きだゆき、これをどう抑えればいい? 「…雪奈、愛してる。」 これをどこにぶつければいいかな。 なぁ、ゆき…… [*back][next#] [戻る] |