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◇LIQUID AND SOLID
白と黒


昼間は明るく入りやすい、お値段もリーズナブルなレストランだけど、


夜になると落ち着いた雰囲気のお店になる。


ピアノが静かに音を奏でており、ムードがあって、最近はカップルにかなり人気がある。


田舎のレストランなのに、予約がいるくらいだ。

僕はその店の真ん中でピアノを弾いている。


僕の唯一の特技。

けど、ピアノ教室に通ったわけではない。


物心ついた頃からずっと家は親父のせいでめちゃくちゃだったから、


習い事をさせてもらうほど余裕はなかった。


ただ、母さんはピアノコンクールで賞をとった事があるくらいの腕前で、

僕が生まれる前に買ったらしいグランドピアノが母さんの部屋にあった。

それを使って僕にも音楽を教えてくれた。


今思えば、ピアノも母さんが残してくれたものの一つだ。



……今でも、母さんのノクターン20番が思い出せる。


母さんの奏でる音楽は、いつも悲しげだった。


―――――--‐‐‐




スタッフルームで制服に着替えて、そっと店内に入った。


すると顔馴染みのお客様から久しぶり、というかのように手をあげられたので、軽く礼をしながら、真っ直ぐにピアノへ向かう。


そうして椅子にかけて、スッとピアノを一撫でする。


…これを開けば、僕はこのレストランの装飾品の一つだ。


軋んだ音を響かせながら、白と黒の肌をあらわにする。


楽譜を置くべき場所は、鏡のように僕を映し出すのみだ……体で弾いているから、目を使わない。使えない。


いざこの椅子に座ると、人のざわめきと目線に緊張して、心が圧迫されてしまう。


………この感覚には、慣れないな…。

深呼吸をして心を落ち着かせ、鍵盤に指を添える。


僕は指先からピアノと一つになって、

周りのざわめきが消えた。



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あきゅろす。
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