◇LIQUID AND SOLID
ことしょう
「なぁ…優子はどうしてる」
コイツはいきなり笑顔になって猫なで声をだしてきた。
けれど目は鷹のように僕の小さな表情も見逃すまいと観察している。
母さんの事なんていまさら聞いてどうするのか…。
優子は母さんの名前だ。
そしてコイツは翔平。
「母さんの事を聞いてどうする気。」
「どうするって?どうもしねぇよ。ただせっかく久しぶりに“息子”に会ったんだ。幸せにしてんのか気になるもんだろうが」
やけに“息子”を強調した言い方にカチンとくる。
「あんたこそどうなんだよ。“家政婦”はもう見つかった?」
すると
「……いうようになったな。“家政婦”なんか見つかってねえし、必要ねえな」
意味は解っているくせにさらりとかわしてきた。
さらに可哀想なものをみるような目で見てくる。
――――やめろ!そんな目で見るな!
フラッシュバックのように幼少時代の“目”が蘇る。
この状況をなんとか変えたくて、
「母さんは新しい“お父さん”と結婚して幸せになったさ!!」
言うつもりなんか無かったのにバラしてしまった。
海外にいるしまさか見つけることもないだろう。と、どこかで計算し。
だけど、コイツの反応は予想外だった。
「な…んだと…?本当なのか!?
まさか離婚する前からの付き合いじゃないだろうな!?
どいつだ!!俺の知り合いか!近所のクソ共か!」
憤怒の形相で喚きながら詰め寄ってきた。
顔はドス黒く変色して、目も充血している。
「優子は…!優子はどこにいる!!?」
直視できないで顔を反らしていると、詰め襟を捕まれて引き上げられた。
力加減なんて全くしていないので思い切り首が締まる。
相変わらずコイツはツバをとばしながら何か詰問してきているが、
キーーンと聞こえ始めた耳鳴りにかき消される。
だんだんと声が遠くなって目の前が知らぬ間に真っ暗になっていた。
頭が膨張したかのように痛んで、真っ暗なビジョンはテレビの砂嵐になった。
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