休憩時間。
あのまま教室に帰るのも何だか気まずく休み時間になるのを待って教室に戻った私はまだアレンとラビが戻ってきていないことを不思議に思いながらも無言で席に着く。
私が席に着いた音でそれまで会話をしていたらしい神田とリナリーが同時に振り返った。
私の姿を確認して、それからふたりはアレンとラビの姿が見えないことに首を傾げる。
「小鳥、お帰り。アレンくんとラビは一緒じゃないの?」
リナリーの言葉に私は眉を潜める。
不機嫌そうに言い捨てた。
「あんな奴ら、知らない。今頃屋上で馬鹿やってるんじゃないの」
「もしかしてお前、ラビとも喧嘩したのか」
「まかさ。でもアレンと一緒に居る奴なんて知らないっ」
神田の問い掛けに答えて、ふんとそっぽを向く私は相当な餓鬼だと思わなくも、ない。
それがわかっていながらそれでもどうしようもなく苛々していた私はカーディガンのポケットから携帯を取り出した。
高校生ならではの早打ちでメールを打つ。
「はい、送信っと」
携帯を閉じて待つこと数秒。鳴り響いた着信音に私はすかさず携帯を開いて通話ボタンを押す。
「あ、もし、先輩?」
お願いがあるんですけど、だなんて言いながらちらりと神田とリナリーを見ればふたりは呆れ顔で私を見つめていた。
これはいつものこと。彼らに構うことなく私は電話の相手と会話を続ける。
「うん、そう、そう。うん、じゃあよろしくね」
適当に相槌をうって通話終了。
携帯をポケットに戻して私は溜息をついた。
「…なによ。ちょっと泊まりにいくだけだって」
二人分の視線が痛くて私は視線をさ迷わせる。
私にはちょっとした放浪癖というか、よく誰かの家に泊まりにいくそんな癖がある。
家に居てもつまらないので、ふらふらとでかけては先輩や友達の家に泊まりにいってしまうのだ。もちろん、その間は学校にもあまり行かなくなるわけで。
アレンの家に行く前はよくリナリーやラビに神田の家に泊まりに行っていたりもしていたが彼等にも彼等の家の事情があるわけで、そう頻繁に泊まりにいくこともできない。
呆れきった顔をしたリナリーが頬杖をつきながら尋ねてきた。
「で、今度は誰の家なの?」
「ティキ先輩」
何食わぬ顔で言った私にリナリーと神田が目を瞠る。
私は首を傾げた。
「なに、どうかし…」
「駄目よ、小鳥っ」
勢いよく身を乗り出してくるリナリーに私は思わず後退る。
「はい?」
リナリーの過剰な反応の理由がわからない私は困惑仕切った顔を神田に向けた。
が、返ってきたのは少し驚いたような顔と呆れ混じりの声。
「お前、ティキの噂知らねえのか?」
「噂って?なんの?」
本気でわけがわからない私に少し怒ったような顔をしたリナリーがぐいと詰め寄ってきた。うん、顔が近い。
「いいかしら、小鳥。ティキ先輩って言ったら女泣かせで有名なのよ。知らないの?」
「ああ、何だそのこと。知ってるよ、本人から聞いたし」
「え、知ってるって、まさか…」
青ざめた顔をするリナリーを押しのけて私は苦笑を浮かべた。うん、だからリナリー、ちょっと顔が近いのよね。
「だーかーらぁ、ただ泊まるだけだから大丈夫だって」
「小鳥がそのつもりでも相手はティキ先輩なのよ!?」
声を張り上げるリナリーに私は頭が痛くなって額を手で覆い隠した。
「リナリー、心配しすぎだって」
現に今まで何度か男の家に泊まったこともあるがそういう目にあったことは一度もない小鳥なのである。
だから今度も大丈夫でしょと楽観的な思考の私に神田が釘を刺すようにいった。
「お前、あんまり男なめてるとそのうち痛い目みるぞ」
「…神田まで。絶対大丈夫だと思うのになぁ」
聞く耳のもたない私はふとキョロキョロと辺りを見渡してから声を潜めた。
「それからさ、このことはアレンに絶対内緒ね」
心配させて私の存在の有り難さをわからせてやるんだから!
意気込む私にリナリーと神田は何とも言えない表情で顔を見合わせた。
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