気持ち
反射的にガバッと体が起き上がった。
「こんにちは」
「…こんにちは」
思わず口を付いてでた言葉に、
しばらく間を置いて、男が返す。
「真野征爾です。」
「…小月翔です。」
明らかに不審そうに俺を見る男が、濡れている事に初めて気付いた。
白いシャツが肌にくっつき、したの肌色を透けさせている。
ごくり、と喉がなる。
「傘を、」
「傘?ああ、わざわざ返しにきたの?」
「あ、はい」
寄ってくる男に、思わず、尻で後ろにさがる。
動きを止めた男が首を傾げながら、顎に手をやった。
「…君、さっきから、挙動不審なのわかってる?」
頷く。
すると男はおかしそうに、くつくつと喉を鳴らして笑い始めた。
「だって、あなたが、」
笑みをたたえたまま、男が俺に聞き返す。
「俺が?」
「あなたが、」
言葉につまる俺に、男はますます目を細めた。
「俺の家、近くだけど、来る?」
きっと男の纏っている空気に当てられたのだ。
俺は差し出された手をとった。
2人で、
傘もささずに歩いた。
手を繋いだまま。
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