ゆさり、 肩を軽く押した瞬間だった。 ポタリ、 灰色のスラックスに染みが出来る。 ポタリ、 ポタリ、 続けて落ちる水滴に、朝香はハッとする。 「な、に、泣いてんの?」 ひどく動揺した朝香の声に、ゆっくりと、宇野の顔が上がる。 目を開けてられないのか、何度もまばたきを繰り返す。 「こ、コンタクトが………、」 つー、と頬を流れる涙に朝香が見とれていると、宇野はそうつぶやいた。 「って、コンタクトかよ!?」 思わず突っ込んだ朝香に、ずいっと顔が近付けられる。 それに、顔を真っ赤にして、朝香がたじろいたのを、視界の悪い宇野は気付かない。 「悪い、目、見てくれないか?多分ゴミが…」 「ぉ、おう。」 おずおずと覗き込んだ瞳に、朝香がうつる。 朝香は目頭によったゴミを小指のはらで救いあげた。 実は、睫が長く、形の綺麗な瞳だった。 とか、 考えて、朝香は慌てて頭をふった。 「どうした?顔があかいぞ辻野」 「ナンデモナイデス」 首を傾げた宇野から、朝香は慌てて顔をそらした。 恋の始まりなんて、こんなもん。 [*前へ] [戻る] |