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小説
紅の桜咲く様に/高桂/3Z
「・・・迷ったな・・・。」

桂は周りを見回し、困ったように呟いた。それもその筈。桂が銀魂高校へ入学して、まだ一週間も経っていないのだ。

一度も行ったことの無い理科室へ行けなどと言われても、そうスラスラと行けるものではない。

 桂は薄暗い廊下を走っていた。が、目の前でたむろす上級生を見て、足を止める。

 ―困ったな・・・、引き返すしかないか・・・。

そう思って引き返そうとする桂の腕を掴む者がいた。振り向くと、いかにも柄の悪そうな雰囲気の上級生がニヤリと笑っていた。

 「待てよ。」

彼は、厭らしそうな目で桂の顔を嘗め回すように見ていた。

 「テメェ、女のくせに何でこんな制服着てンだよ?」

 「何を・・・っ!?俺は男です・・・っ!!」

そう言い返す桂は、自分が今や上級生に囲まれていることに気付いた。

 「じゃぁ、見せてみろよ。付いてンだろ?男なら。」

別の上級生の言葉に、桂を囲んでいた者全員がゲラゲラと下品に笑う。

 「離して下さい・・・っ!!」

桂は力任せに上級生の手を振り払い、その場を去ろうとした。が、後ろから強く肩を掴まれ、仰向けに押し倒された。

 「何を・・・っ!!」

 「オレ達、ヒマだったんだよね。丁度いいから遊ぼうぜェ。」

ゲヘゲヘと下品な笑い声を立てながら、自分を見下ろす上級生に桂は身震いする。

 「嫌だ・・・っ!」

だが、立ち上がろうとしても身体に力が入らない。

 「やめ・・・っ!」



 その時、ビュッと黒い風が駆け抜け、次の瞬間、桂を囲んでいた上級生達は皆、白目を剥いて床の上に倒れていた。ただ一人を除いては。

 桂は、ぽかんとしてその生徒を見上げた。彼は、癖毛の黒髪に鋭い目をしていて、左目を眼帯で隠していた。

さっき自分を囲んでいた上級生の中には見なかった顔だ。桂はぼんやりと彼の面影に、どこか懐かしい気持ちを抱いた。

 彼は桂へ歩み寄ると、心配そうに顔を覗き込んだ。

 「大丈夫か・・・?小太郎?」

そう言って自分の頭を撫でる手を、何故か桂は酷く愛しく感じていた。

 「あの・・・、どうして俺の名を・・・?」

そう尋ねる桂の手を取り、立たせてやりながら、彼は言った。

 「生まれる前から知ってるぜ。」

 「え・・・?」

思わず聞き返す桂に彼は苦笑しながら言った。

 「お前も、知ってるはずだぜ・・・オレの名を・・・。」

彼の言葉に桂は更に混乱した。

 「何を・・・?」

 「やっぱり、覚えてねェんだな・・・。」

彼は一瞬哀しそうに笑うと、桂の頬を優しく包み込む。

その仕草に何故だか桂はあまりの愛しさに泣き出しそうになる。

そんな桂に高杉はそっと告げた。

 「オレの名前は・・・、高杉晋助だ。」

それを聞いても桂は何も思い出すことは無かった。が、どこかで酷く懐かしく、愛しい思いに駆られるのを感じた。

 「ホラ、早く理科室行こーぜ。」

自分の手を引いて走り出そうとする高杉に、桂は訳が分からないという顔をする。

そんな桂に高杉は笑って言った。

 「オレ達、同じクラスだろ?」



 それから、自然と桂と高杉は行動を共にするようになった。

 「小太郎、宿題見せろ。」

 「何で見せてもらう身のお前がそんなに偉そうなんだ、晋助。」

そう言いながらもノートを手渡す桂に高杉は笑って言った。

 「ハハッ。やっぱり変わってねェな、そういうところ。」

それを聞いて桂は溜息をつく。

 「また、その話か・・・。」



 高杉は―彼が言うにはだが―、自分の前世を覚えている・・・らしい。そして、彼いわく、前世では桂と高杉は恋人同士だった、らしい。

しかし、二人の想いが通じ合った時には既に桂は不治の病に侵されていて、最期は高杉の腕の中でその生涯を終えた。

 その話を、桂は高杉の作った見事な「御伽話」だと思いながら聞いていた。

そんな訳がある筈は無い、と。だが、心の何処かで高杉を懐かしく思っている自分がいた。



 その日、高杉と桂は二人並んで廊下を歩いていた。

 「それにしても、晋助は強いな・・・。」

 「あ?オレ、昔から剣道やってるからな。まァ、素手も強いけど。

そう言って高杉は桂を見た。

 「でも、お前も強かったぜ?」

 「またその話か・・・。」

 「お前が覚えてなくても、事実なんだからな。」

 「あぁ・・・うん・・・。」

今まで否定していた桂の突然の肯定に高杉は驚いた。

 「小太郎・・・?」

顔を覗き込むと、桂はどこかぼんやりとした表情をしていた。

心成しか、頬が微かに上気しているようにも見える。

 「小太郎?」

高杉が桂の肩を軽く揺すると、桂の足から力が抜け、くたりと高杉の胸へ倒れ込んだ。

 「小太郎っ!!!」

慌てて抱き止めた桂を見ると、彼は既に意識を手放していた。

高杉の脳裏に前世の光景が浮かび上がる。

―自分の腕の中で、苦しげながらも幸せそうに瞳を閉じた桂が・・・。

 「嫌だっ!小太郎!!また離れ離れになんか、なりたくない!!」

―やっと再び会えたのに・・・。もう、離したくなど・・・。



 桂が目を開くと、真っ先に蒼白な顔をして自分を見つめる高杉が目に飛び込んできた。

 「晋助・・・。」

桂が高杉の方へ伸ばした手を、高杉は取り、自分の元へと引き寄せる。

成す術も無く、高杉の胸に顔を埋めるようにして倒れ込んだ桂を高杉は強く抱き締めた。

 「・・・・晋、助・・・?」

桂は高杉の顔を見上げた。高杉は今にも泣き出しそうな顔をしている。

桂は、ゆっくりと手を伸ばし、彼の両頬を包み込んだ。

 「・・・くな・・・。」

 「え?」

高杉は桂を抱く腕の力を強めながら言った。

 「もう、何処にも行くな・・・。離したくねェ・・・。」

 「晋助・・・。」

高杉の温もりが、酷く優しく、愛しい。

自分と高杉が前世で恋人だったというのは、本当のことなのかもしれない・・・。

桂はぼんやりと思った。

 「小太郎・・・愛してる・・・。」

高杉はそう言うと、桂の唇に軽く口付けた。

 「うん・・・、知ってる・・・。」

桂は高杉に口付けを返した。



 ―俺たちは、ずっと前から、愛し合って生きていたのだから・・・。

〈あとがき〉
非常に遅くなってしまい申し訳ありません!!
これにて高桂強化作品「紅の桜〜」完結です!!
やっぱり高桂には幸せになってもらいたいものです!!



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