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小説
続・紅の桜散る様に上/高桂+銀桂
「すまない、銀時…。お前にも仕事があるのに…。」
 「気にすんな。万事屋ならアイツらがちゃんとやってるからよ。それより…。」
銀時は、桂の枕元に膝をつき、そっと桂の額に手をやった。
 「まだ、下がらねェな、熱…。これでもう、一週間経つのによォ。」



 桂が高熱で倒れた。
 それは、高杉と決別してからもうすぐ一年が経つ、冬の始めのことだった。
桂の家を訪れた銀時に縋り付くなり、桂はその腕の中で意識を失ったのだ。
 それから一週間経つその日も、桂の熱は下がることは無かった。
指名手配犯である桂は、そう簡単に医者に診てもらうことも出来ず、ただ銀時に看病してもらうしか無かったのだ。



 銀時は、布団に横たわって眠る桂を見ていた。
ふと、桂が声を漏らす。
 「しん…すけ…。」
それを聞いて銀時は桂から顔を背けた。
 ここ一週間、桂はいつも、眠りながら高杉の名を呼ぶ。
それが、何を意味しているのか、銀時には嫌と言う程解っていた。

 ―桂は、高杉のことを好きだということが。

 銀時は、幼い頃から唯一人、桂と高杉の秘めた想いに気付いていた。
二人が、自覚も無く、淡い想いを寄せ合っていることに。
 だから、彼らがその想いに気付く前に桂を高杉から奪ったのだった…。



 桂が倒れてから一月が経とうとしていた。桂は、みるみる痩せ衰えていった…。
 「銀時…。俺はもう、長くは無い…。」
 「何言ってんだ、ヅラ。テメェらしくも無ェ。」
 そう言いながらも銀時は、桂の先が、もう長くは無い事に気付いていた。
 「桂…。」
銀時は、かたく桂を抱き締め、耳元に囁いた。
 「何か、オレがお前にしてやれることは無ェか?」
そんな銀時に抱き着きながら桂は答える。
 「俺は、お前が傍に居てくれるだけで、構わない…。」
 「そうか…。でも、高杉に会いたかったんじゃねェの?」
銀時のその言葉に、桂は瞳を揺らす。
 「何で…?」
動揺を隠しきれない桂に銀時は言った。
 「お前、いっつもアイツの名前、呼んでんじゃん。」桂は更に激しく瞳を揺らす。
 「銀時…!?」
許しを乞うように、蒼ざめて自分を見上げる桂を、銀時は優しく抱き締めた。
 「ごめんな、桂…。オレがお前らの気持ちを知っておきながら、お前をアイツから奪っちまったから…。」
 「何を―っ!?」
とうとう震え出した桂の髪を撫でると、銀時は無言で部屋を出て行った。



 一人残された桂は、両腕で自分の体を抱き締めた。
 高杉と決別してから、桂は毎晩、同じ夢を見ていた。
高杉が哀しそうに笑いながら自分に背を向け、何処かへと行ってしまう夢を。
 桂は、あの件からずっと、自分の言動を悔やんでいた。

 ―何故、俺は、晋助に嫌いだと言ってしまったのだろう…?

 ―俺を、いつも守ってくれていたのは晋助なのに…。

 ―会いたい…晋助に会いたい…。

 ―そして、あの時のことを、謝らねば…。

 桂の目から落ちた涙が、枕を濡らす。泣きながら、桂の意識は再び哀しい夢の中へと沈んでいった。



 その頃、銀時は高杉ら鬼兵隊の潜伏している船に忍び込んでいた。
何をしてでも、高杉を見つけ出さねばならない。まだ、桂が生きているうちに。
既に日は沈み、辺りは暗い。闇に紛れながら銀時は、船頭で一人、月を眺めながらキセルを吸う高杉を見つけた。



 「高杉。」
名を呼ばれて高杉が振り返ると、背後には、本来その場に居てはならない筈の銀時がいた。
 「銀時ィ!テメェ、一体何しに―っ!?」
自分を見るなり包帯で覆っていない方の目を見開く高杉に、銀時は口を開いた。
 「ヅラが、病で倒れた。もう、長くは無ェ。」
その言葉に高杉は更に激しく動揺する。
 「ヅラが…!?どういうことだよ!?」
自分の胸倉に掴みかかる高杉の手首を掴み、銀時は続けた。
 「高杉…。頼む、桂の元へ行ってやってくれ…。」
 「何でオレなんだよ!?テメェがヅラの恋人だろっ!?」
逆上する高杉に銀時は寂しそうに笑った。
 「オレには、もう…アイツに何にもしてやれねェんだ…。」
 「何でだよ?!」
 「アイツは毎晩、夢にうなされながらテメェの名前を呼んでんだ…。」
それを聞いて高杉は掴んでいた銀時の胸倉から手を離した。
 「ヅラが…オレを…?」
銀時は頷き、言った。
 「頼む、高杉…。アイツを…アイツを、幸せにしてやってくれ…。お前にしか、出来ないんだ…。」



 桂は、いつものように哀しい夢にうなされていた。
高杉が、すぐ傍に立っている。顔に、哀しそうな笑みを浮かべて。
 「晋助…。」
桂は、高杉に向かって手を伸ばした。
何度も繰り返される夢の中で、高杉がその手を取ってくれないことは解っている。
でも―。
 「晋助…。」
願うように、祈るように伸ばした手を、優しく包まれる。
 ―え…?



 桂がゆっくりと目を開けると、高杉が自分の手を握っているのが見えた。
 「しん、すけ…?」
半信半疑で高杉を見上げる桂に、高杉は愛おしむように答える。
 「小太郎…。」
それを聞いて安心したのか、桂の両目から涙が溢れ出す。
 「晋助…。」
桂は、高杉の手をぎゅっ、と握った。
 ―言わなければ…、まだ生きているうちに、伝えなければ…。」
桂は潤んだ瞳を高杉に向け、言った。
 「晋助…。俺は、あの時、お前を嫌いだと言ってしまった…。
でも…、本当は違うんだ…。俺は…俺は…昔から…お前のことが…。」
続けようとした桂の唇を指で封じ、高杉は言った。
 「言わせろ…。小太郎、ずっと昔から、お前が、好きだ…。」
それを聞いて、桂の両目から一際大粒の涙が零れる。桂は、両手で高杉の頬を包んだ。
 「晋助…、大好き…。ずっと昔から、大好きだ…。」
 「小太郎っ!」
高杉は桂を抱き締めた。力いっぱい、かたく、かたく―。
長い間想い続けてきた高杉の腕の中で、桂は幸せそうに微笑んだ。



 腕の中で幸せそうに眠る桂を優しく見つめながら高杉は隣で添い寝する。
そんな二人を銀時は遠くから見ていた。
 「これで、良かったんだよな…。」
そう自分に言い聞かせる様に銀時は呟いた。
 「ヅラが、幸せなんだから…。」



                                        〈下へ続く〉





〈あとがき〉
 長いので上下編になってしまいました。銀さんが可哀想な役回りでスミマセン。
これを昨夜、事情があって携帯で打ち込んだ黒桜を褒めてやってください(殴。
下は微裏になりそうです、多分。それでも宜しいという方は楽しみにしておいてください。

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あきゅろす。
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