小説
紅の桜散る様に/銀桂⇔高
「アララ、こんなものかィ。」
背後で似蔵の満足そうな声が聞こえる。
背中が、酷く痛い。立ち上がろうとしても、体に力が入らない。
こちらへ近付いて来る似蔵の足音が聞こえる。
―逃げなければ。
桂は起き上がろうと地面に手をついた。
が、ぐわし、と長い髪を掴まれる。
桂はこの時初めて死の恐怖を感じ、震えた。
―嫌だ。死にたくない。
似蔵の剣が振り下ろされる。
咄嗟に桂は目を硬く閉じた。
ばさり、と何か細くて黒いものが視界を覆う。
―・・・っ!?
それが自分の髪の毛だと気付いた時、桂の意識は既に深い闇の中へと沈んでいた。
高杉は一人、船の中を歩いていた。時折、窓から月の光が彼を照らす。
その眩しさに彼を目を細めた。
桂が殺られた。
その知らせを聞いたのは昨夜のこと。どうやら、似蔵が紅桜のデータを積もうと、
攘夷戦争の英雄で、かつ高杉と親しい間柄に在った桂を狙ったらしい。
あの桂が殺られる訳が、無い。
聞かされた当初、高杉はそう思っていた。
が、似蔵本人から見慣れた長い黒髪を見せ付けられた時、その思いは絶望へと変わった。
まさか、と思った。
悪い夢であって欲しい、とも思った。
だが、見せ付けられたそれは間違いなく桂のものだった。
ハッと我に返ると、高杉は船の地下まで来ていた。そこは倉庫で、普段は滅多に人の出入りが無い。
自室へ戻ろうと高杉が引き返そうとした時、窓の外から月の光が倉庫の中を照らし出した。
それによって、乱雑に積まれた箱と箱の間に横たわる人影が高杉の目にはっきりと映る。
「ヅラッ!?」
高杉は人影の元へ走り寄った。
案の定、それは桂だった。だが、彼の長かった髪は、バッサリと切り落とされ、
体に乱暴に巻かれた包帯が猿轡代わりに口をも覆っていた。
高杉は、そっと桂の体を抱き起こす。が、薬でも飲まされているのか、桂は一向に目を覚まさない。
口を覆う包帯を引き剥がすと、桂の口から苦しげに息が吐き出された。どうやら死んではいないようだ。
高杉は桂の体の包帯を丁寧に巻き直すと、桂をそっと抱き締めた。
桂の体は、酷く冷たかった。無理も無い。こんな温度の低い場所に丸2日もいたのだから。
高杉は自分の羽織を脱ぐと、それで桂を包み、再び抱き締めた。
「ヅラ・・・。」
高杉は自分の腕の中で眠り続ける桂の頬に、そっと触れた。
「生きていてくれて、良かった・・・。」
高杉は、いつも桂を想っていた。
それを桂は、おそらくは知らない。
桂の隣には、いつも銀時がいたのだから・・・。
桂を抱き締めながら、高杉は長いため息をついた。
きっと、銀時は此処へ来る。桂を助け出しに。
そしたら、桂は銀時の手を取り、再び彼と何処かへ行ってしまうのだろう・・・。
そう、高杉では無く。
「オレ、お前のコト、ガキん時から好きだったのになァ。」
そう、ずっと幼い頃から。桂しか見てこなかった。
「なのに、銀時に先越されちまったからなァ。」
だから、銀時の手を桂は取った。
力づくで桂を奪うことも高杉には出来た。だが、しなかった。
桂の悲しむ顔を見たくは無かったから。
ただ、それだけ。
でも、この想いはずっと、変わらない。そして永遠に・・・。
「小太郎・・・。」
高杉は、優しく桂の髪を撫でた。
「愛してるぜ・・・。」
そして桂の冷たい唇に自分の唇を重ねた。
地下倉庫を後にしながら高杉は、そっと自分の唇に触れた。
きっと―、桂に口付ける日は、今日で、最期。
二度と訪れる日は無いだろう・・・。
高杉は一人悲しそうに笑った。
「ホラ、ヅラ、さっさと逃げるぜ。」
銀時に手を引かれて船から飛び降りる間際、桂は高杉と目が合った。
高杉の目は、何処か悲しそうな、それでいて笑っているようにも見えた。
「晋助・・・。」
桂は気付いていた。高杉が、幼い頃から自分に想いを寄せていることを。
だが、既に隣に銀時がいた桂にはその想いに応えてやることが出来なかった。
でも・・・。
「晋助・・・、本当は、俺・・・。」
「ヅラッ!!」
銀時に強く手を引かれて、桂は船を飛び降りた。
地面に着いた途端、銀時は強く桂を抱き締めた。
銀時に腕を回し、抱きつく桂の頬を一筋の涙が滑る。
「ヅラ・・・?」
銀時が心配そうに顔を覗き込んでくる。
だが、涙は一向に止まることは無かった。
―ごめん、晋助。お前の気持ちに応えてやれなくて・・・。
―でも、俺は・・・。お前のことが・・・。
泣き崩れる桂を銀時はいつまでも抱き締めていた。
〈あとがき〉
紅桜祭高桂強化月間メインの小説をやっとUPできました!!!
黒桜が勝手に考え出した紅桜編です。連載当初、桂は絶対高杉に監禁されていると思っていました。
なんか本誌も銀桂⇔高って感じなので切なめに書いてみたら、銀さんが酷い人みたいになってしまいました。
続編あります。お楽しみに。
[前へ][次へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!