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小説
霧雨霞月/高桂
しとしとと降る雨に霞む月を、桂は縁側に立って見ていた。時々、霧のように細やかな雫が彼の長い黒髪に引っかかるが、

それを気にも留めずに、彼は一人、物思いに沈んでした。



 攘夷戦争は、桂達攘夷派の完敗だった。仲間達は次々と命を絶たれ、天人と人間の力の差を、嫌というほど見せつけられた。

桂の友人も、次々と攘夷戦争が終わる前に姿を消した。攘夷戦争が終わった後も、桂は未だこの家に残っていた。

かつての仲間達と共に過ごしたこの家に―。彼には分からなかった。自分が今後何を目標として生きていけば良いのか―。

そもそも、自らの命を懸けて戦ったあの戦争は意味があったのかと―。



 「こんな処で何やってんだよ、ヅラ。風邪ひくぜ。」

 「ヅラじゃない、桂だ。」ふいに、耳に届いた声に反論しながら振り向くと、背後に高杉が立っていた。高杉は、ニヤリと口の端をめくると、

背後から優しく桂の体を抱き締めた。高杉のもたらす温もりが心地よく感じられて、桂は安心したように今まで引き結んでいた唇を緩めた。

高杉は桂の髪にそっと触れたが、その髪が雫でしっとりと濡れているのに気付くと、更に桂の体に巻きつけた腕の力を強めた。

 「お前、ホントに風邪ひきたかったのかよ。」

 「違う。ただ、考え事をしていただけだ。」

 「へぇ、自分が濡れていることにも気付かないで、何考えてたんだよ?」

高杉のその問いに桂は迷うように、しばらく口を閉ざしていたが、やがて、ゆっくりと噛み締めるように言った。

 「俺達は・・・一体、何の為に・・・命を懸けて・・・戦ったのかと思ってな。」桂は再び霧雨にその姿を歪ませながらも光を放つ月へと目をやりながら続けた。

 「この戦争で、たくさんの仲間が死んでいった・・・。でも、それ程の犠牲を出したというのに、俺達は惨敗してしまった・・・。銀時や坂本は、

この戦争が終わる前にすでに次の目標を抱いて去って行ったというのに、俺には、まだ・・・、次の目標が分からない・・・。」

 「ヅラ。」今まで黙って桂の言葉を聞いていた高杉が口を開いた。「オレ達の戦いは、まだ終わってねェよ。オレ達は、まだ負けてねェ。」

 「銀時や坂本は、それぞれ違う道を歩み始めたというのに、まだ攘夷にこだわれというのか。」桂は苦笑した。

 「何言ってんだよ。攘夷を貫き通すことに意味があるんだろーが。それが、死んでいった奴らへの償いってやつじゃねェのかよ!」

語気を強める高杉に桂は驚いて彼を振り向いた。

 「高杉・・・。」

 「オレは、一生攘夷を貫き通すぜ。たとえ、この身が滅んでもな。」そう言って強い眼差しで月を睨みつける高杉の顔を、桂はしばらく見つめていたが、

やがて軽く苦笑しながら言った。 

 「お前の言うとおりだな・・・。俺達は、まだ負けてなどいない。まだ希望は、あるのだからな。」桂は高杉の顔を見ながら続けた。

 「高杉、また俺と共に戦ってくれるか。」

 しかし、高杉は桂のその問いには答えず、桂を離して、霧雨の降り続ける外へと出て行った。霧雨に濡れながら、キセルを咥え、

月を見上げる高杉の姿は霧雨に霞み、幻想的に見えた。あの月のように。そんな高杉の背中を見ながら、桂は嫌な胸騒ぎを覚えた。

なぜか、高杉が、そのまま霧雨に霞んで消えてしまうように思えた。この雨が止んだら、高杉は自分のもとから消えてしまうのかもしれない・・・。

そう思った途端、桂は高杉のもとへと駆け出していた。

 「高杉ィィっ!」桂が霧雨の中で佇む高杉の背に縋りつく。振り返って自分を抱き締める高杉の腕の温もりを感じながら、桂は、ぎゅっと彼に抱きついた。



 ―高杉、お前まで俺のもとから去って行ってしまうのか・・・。誰よりも愛しいお前まで・・・。



 止む気配も見せずに降り続く霧雨は、静かに二人を包み込んでいた。





〈あとがき〉

 初高桂です。もう撃沈モノですね・・・。高杉は、この翌日、桂のもとから姿を消してしまいます。

次回は、この続編で、これから2年後の設定です。



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