2 「ちょっとっ!!!酷くない!?」 『嗚呼…五月蝿い、なー…』 教室に入り、席に着いて数分後、ドタバタと荒い音を立てて来るなり、鴻は周りの目等気にせず騒ぎ立てた。 教室中の視線が一時的に私達へと集中するものの、直ぐに散る。 皆、余裕が無いのだろう。 唯一人ずっと眉間に皺を寄せた長身の男子が此方を睨み付けているが、気持ちは分かる。 空気読めてないしな、この娘。 …あの威嚇するかの如く逆立った髪に、頬の傷は確か袴田だったろうか。 彼は後に素晴らしく役に立ちそうなので、私としては友好的な関係を結んでおきたい。 主に実験台として価値がある。 …そう言えば、同じように考える男子が居たっけ。 隣で喚く友人側の耳に手を当て教室内を見渡す。 髪を後ろで一つに縛ったの男子を見つけ、軽く笑んでしまった。 …多分、彼とは仲良くなれそうだ。 「全員揃ってるな」 そこで、教室前方の入口に掛けてある幕が揺れ、非常にスタイルの良い女性が現れ、教室中を一喝した。 鴻が慌てて席に着いた。 あの担任は毛先の先がバッサリ切られた髪型が特徴的だと思うが、あの体型は正直な話、羨ましい。 …私だって、あの位の歳になれば。 少し悔しかったので、隣の鴻を見て自分を慰める。 あ、こんな所に彼女の利用価値が、なんて思って見ていたら、見事に綺麗な笑みを返された。 …何だと思っているんだろうか。 私は苦笑いを返した。 そのまま、教室前方で御堂と名乗った担任が裏に大きな円とその四方に三角形が描かれた小さな折紙大の紙を配り始めた。 紙が届いて、生徒達の反応は二極化した。 不思議に思う者と冷静に紙を見据える者。見事に分かれたと思う。 ただ、間違いなく最も反応が見事だったのは、友人(驚愕)であった。 飛び出すんじゃないかと思うくらいに目を見開き、ばっくりと口を大きく開いた。 此処は歯医者じゃないよ、と言いそうになったくらいだ。 …嗚呼、やっぱり。 この様子から察するに、事態は私の予想通りだった。 鴻に関して、ある意味、最大の問題は此処にあった。 そう…。 私が恐れていた問題。それは、鴻が馬鹿だということである。 「一文字漢字を書け」 御影先生のその命令に、鴻が果たして漢字を書けるのかが不安だったのだ。 案の定、厳しい態度で急かす御影先生を横に鴻はうんうん唸っている。 けど、私思うんだ。 …鴻、この世界で漢字が必要なの知ってたよね。 この先がまた一つ不安になる。 [*前へ][次へ#] |