5 一度、小さく深呼吸する。 手紙に書いてあった言葉を思い出し、呟いた。その際、在る物を思い浮かべる。 『本』 その言葉に応えるかの様に、肩に刻まれた文字が光り剥がれるように宙に現れる。 それが、目の前で形を変えた。 『素晴らしい』 具現化したそれを掴み、一通り眺め、感嘆する。 細部まで確りと思い描いた物だった。 表紙も中身も真っ白な本である。 表紙を開くと裏に説明が書いてある。 ・これは魔法の本です。 ・世界を創る事ができます。 ・世界は貴方の物です。 ・世界に存在させた物も貴方の物です。 ・物に関わる全ての事は貴方次第です。 ・世界は魔法の本を開くと共に始める事ができ、閉じると共に終わらせる事ができます。 ・世界は貴方が終わった場合も終わってしまいます。 ・始めの内は余り望み過ぎては上手くいきません。 ・世界は不安定なのです。 ・此れのルールは予告なく削除、追加、変更される場合があります。いつでも離さず持ち、こまめに確認するようにして下さい。 読んでも訳が分からない。 とはいえ、今は必要無い。 手紙に指示があったのだ。だから、本は開いたまま、その指示に従う事にした。 『鴻』 そう言って振り返れば、彼女は素手で“始”を吹き飛ばしていた。 「琳、伏せっ!」 『へほっ?』 すかさず飛ばされた指示に従い、屈めば、鴻が私の方へ跳び、その直ぐ後、頭の上で打撃音が鳴った。 返り見て、着地した鴻と飛んでいく“始”が見えたことから、私へ飛び掛かってきた“始”を鴻が蹴飛ばしたのだと分かった。 …凄い。 そう思わずにはいられない。 しかし、“始”は殴る蹴るくらいではどうにもならない。その為、いくら吹き飛ばしたところで、四面楚歌には変わり無かった。 [*前へ][次へ#] |