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終わり語り



 しかし、だからといって他人を遠避けるべきかと言えば、それが正しいわけでもない。


 見えず分からない中でも、人は分かり合うし、評価する。励まし合い、愛し合うこともする。

 それは一つの物語が交わる瞬間であり、唯でさえ多い選択肢が新しい可能性を得る瞬間だ。

 不安の闇の中で、信頼という光を宿して物語を模索し、今まで見えなかった多くのモノを見つけて行く素晴らしいことである。

 途中、やはり分からない事で哀しんだり、泣くことがあって、悩みながら痛みを感じ、苦しんで、全てを拒む事になるかもしれない。
 それでも、見よう、知ろうとする事は物語の中では必要だと思える。

 唯一無二だからといって、殻に籠る事はして欲しくない。


 どんな人にだって、支えてくれる人、見てくれる人、愛してくれる人がいる。当然、その逆に位置する人も居るが、それが全てには成り得ない。



「私は、知りたい」


 オトは、もう一度呟いた。


「ボクはどうだろう…分からないや」


 心葉はそれに答えるように呟いて、立ち上がった。胸の前で、銀髪が揺れ、光を受けた部分がキラキラと輝く。

 そのまま少し歩いて、心葉は振り返ってまだ座った儘のオトを見た。

 オトは波の立たない湖の水面のような穏やかな笑みを浮かべて心葉を見つめている。


「また会える?」


 あどけなさを残した心葉の小さな声が、辺りを囲む木々の間に溶けていくように鳴る。


「ええ、いつでも会えるわ」


 笑みを湛えた儘オトが清んだ声で言う。心葉はそっか、と言って、微かに分かる程度の笑みを浮かべ、背を向けると木々が作る闇の中へと消えていった。



「さて、それじゃあ私も行きますか」


 それを見送ると、オトも闇の中へと消えていった。


 後には寂れた教会だけが、取り残され、再び雲が奪った光の下、闇に溶けた。



♯-奏-*END*



 どこかで一つ、命が消える。



  

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