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学園伏魔殿



「鴻、それ何?」


 琳は抑揚なく、猫を指差して訊いた。


「それとはなんだっ!それとはっ!」

「はほっ!?」


 しかし、返ってきた声は鴻の声ではなかった。琳は驚き目を点にし、口を半開きにしたまま固まった。
 鴻は苦笑いを浮かべていた。


「しゃ、喋った。猫が喋った」


 琳はたどたどしく独白するかのように話す。少し猫に視線を釘付けにし、鴻へと問うような目を向けた。


 猫は機嫌を損ねたらしく、器用に前足を組んで、クララが立った、みたいに言うなと呟くとそっぽを向いた。


「凄いでしょっ!」


 ここで、一人と一匹を無視して鴻が空いている方の腕を大きく振って琳へと更に近寄った。
 持つ手にまで力が入ったのか、ムギュッと猫が苦しそうな声を上げたが鴻はまるで気付きはしない。

 琳のことしか頭に無いようである。

「琳の家に行こうとして歩いてたら見つけたの!」


 猫は腕から抜け出そうと、前足で突っ張り腕を押したり、お腹を凹ませたりと足掻く。だが、まるでロックでもされているかのように腕はぴくりとも動かない。

 琳はその様子に気付き、憐れむような視線を投げ掛ける。助けようとはしない。


「何か尻尾の変な猫がいると思ったの」

「変じゃないやいっ!」

「そしたら、何か耳許で、あの猫喋るよって声が聞こえて、捕まえてみたら本当に喋ったの!」

「無視すん…ぐおお…」


 くっきりとした瞳が爛々と輝き、腕の振幅が更に大きくなった。それと共に締め付けも厳しくなったのか、猫が喉の奥から無理矢理引き摺り出した様な低い声で呻いた。

 琳は、凄いねー、と中身の無い相槌を打つ。
 それは、鴻に対してというよりは、呻きながらも懸命に腕から逃げようとする猫に対してだったのだが、自分が褒められたと思った鴻は更に機嫌を良くした。


 当然のように腕の締め付けが増す。これが決定打で、猫は力尽きたようにぐったりと項垂れた。


 

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あきゅろす。
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