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さようなら



「君、誰?」

『………?』


 授業と呼ばれるものが終わって、掃除というものとHRとやらを行い、ボクは帰宅しようと一人廊下を歩いていた。
 玲は部活というものがあるらしく、ごめんと言ってどこかに駆けて行った。
 部活というものも、ごめんと言った理由も今一分からない。

 そして、下駄箱に向かおうと階段に差し掛かった時だ。
 後ろから声がしてボクは立ち止まり振り返った。

 すると、目線の先に黒い髪で、黒い服を肩に掛けた男の人が立っていた。
 目が鋭く、ボクを睨んでいるように思えた。とはいえ、よくは分からない。


「質問しているんだけど」

『貴方は誰ですか?』

「君、ふざけてるの?」

『分からないです』

「わお、なら分からせてあげるよ」

『………え…?』


 言われていることが分からず、聞き返していると、突然、黒髪の男の人は銀色の棒を手に持ち振り回した。

 何がどうなっているのか分からない。銀色の棒が鼻を掠めたことから考えるに、もしかしてボクは襲われているんだろうか。

 ひとまず、当たりたくないと思ったので、当たらないようにボクはふらふらと動いた。
 何故当たりたくないのかは、分かる気もしないでもないが、やはりよく分からない。


「逃げるだけかい?まるで草食動物だね」


 前方から銀色の棒を振ってきていたはずなのに、いつの間にか後ろを取られ、低い声でそんなことを言われる。

 草食動物って何だろう?そう思いながら、後ろから振り下ろされた棒を横に飛んで避けた。
 当たらなくて良かった、と思う理由はやはり分からないけど、本当に当たらなくて良かったと思う。
 床に小さな穴が空いてるということは当たればボクの体にも穴が空いたということだろうか。

 はっきりとは分からないけど、まずい気がする。まずいって何だろう。


「逃がさないよ」

『何をですか?』

「君以外に誰かいるの?」

『ええっと…』


 誰かいるの?と訊かれたので辺りを見回す。すると、廊下の先に見知った人がいた。


『あ…いました』

「……?」


 思わず洩らした声に黒髪の男の人が小さく首を傾げた音がした。見てみると、黒髪の男の人は口の端を少し下げ、獄寺さんのような表情をしていた。


「…草食動物」


 そして、黒髪の男の人はそう呟いた。

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あきゅろす。
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