5
一通り歩いて、ボク達は屋上に出た。
玲は軽快に弾むように歩きながら、鼻唄を奏でていた。
「彼処で食べよう!」
そう言って、彼女はフェンスの一角を指差した。
『うん…あ…』
促され、そちらを向こうとしてボクはその近くにいた三人の姿に声を洩らした。
「あれ?心葉」
「げっ…。記憶喪失女」
その内の二人が同時に辛うじて聞き取れる声で呟いた。
ツナさんと獄寺さんである。ツナさんは鼻に絆創膏を貼っていた。
先程の授業でのものだと思う。
「先輩達こんにちは!」
『お昼ですか?』
玲がハキハキと明るく言って、ボクは二人に訊いた。
「てめーには関係ねーだろ」
「ご…獄寺くん」
すると、獄寺さんが乱暴に答え、ツナさんは小さく呟いた。隣に立っている玲が肩を弾ませてボクの後ろに隠れた。
どうしたんだろう。
「はは、気にすんなよ。こいついつもこーなんだ」
それに合わせて、フェンスに背中を預けた長身の人が、ニカッと笑いながら獄寺さんの肩に手を当てボク達に話し掛けた。
「触んじゃねー、野球バカっ!」
その手を乱暴に払って、獄寺さんはその長身の人の方を向いて、文句を言い始めた。長身の人はただ笑うだけで、ちゃんと聞いているのかいないのか分からない。
「ところで、心葉、その子は誰?」
その二人を余所にツナさんがボクに尋ねる。二人が気になるのか、ボクを見ながらもチラチラと時折そちらに視線を向けている。
ボクは少し、横に移動した。何故か静かになっていた玲がツナさんに全容を露にする。
『同じ教室の御影石玲です』
「同じ教室ってことは、クラスメート?」
『クラス、メート?』
紹介すると、ツナさんが何故か首を傾げ尋ねた。クラスメートとは何だろうと思ってボクは首を傾げ返す。
ツナさんは不思議な表情を浮かべボクを見ると、視線を玲へと移動した。
「あ、心葉ちゃんのクラスメートです!宜しくです!」
それに対して、玲が頭を下げて、先程私に対してしたように笑った。
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