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「心葉ちゃん、購買に行かない?」

『こ、お…ばい?』


 教室が再び喧騒を取り戻すと、一人の女子がボクに話しかけてきた。
 肩の辺りまで伸ばした髪が所々弛い放物線を描いていて、どこかふわふわした印象を受ける。

 その子は、私の訊ねる様な物言いに、不思議そうに小首を傾げた。
 大きな瞳と程好く閉じられた可愛らしい口が、今朝此処に来る際に擦れ違った子犬という動物に似ていると思った。


「えっとね、一緒に食べる物買いに行かないかな、って思って」

『その…ボク、お弁当貰った…』

 言いかけて、鞄から朝、綱吉さんのお母さんに渡された包みを取り出す。
 するとその子は、綱吉さんのような複雑な笑みを浮かべてそっかと言い、人差し指で小さく頬を掻いた。


「じゃ、じゃーさ、屋上で一緒に食べない?行きながら校内の案内もしたげる」

 そして、今度は両手を広げてにこやかに笑んだ。それに対してボクが、う…うんと、小さく首を縦に振れば、更に笑みを深める。


「よーし!じゃ、レッツゴオ!」

『おー……?』


 つと片手を天井に勢いよく突き出した彼女に合わせてぎこちなく手を上げると、彼女はえへへと笑って、ボクの手を握る。そして、その手を大きく前後に振って教室の外へ歩き出した。


『……ん、お』


 引っ張られるようにボクも教室の外へと出れば、少し前を行っていた彼女が振り向き、ボクの腕がその流れで引かれ、身体がよろめいた。


『心葉ちゃん、そう言えば私の紹介がまだだった。私、御影石 玲、レイって呼んでね!』


 体勢を取り直して見上げるように目にした彼女の顔は、凄く輝いていた。

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